第84期 #6
何のことは無い。
話はとても単純なモノだ。
ある日、僕は一人の女性に恋をした。
それは叶うことのない恋だった。
ただ、それだけのこと。
それだけで僕にはこのボタンを押すだけの理由には事欠かないのだ。
何よりもこの千載一遇とも取れなくもない好機を逃すことは僕の欲望が僕のちっぽけな理性を握りつぶすには十分すぎると思えなくもない。
なに、すぐに済む。全てが済む。きっと僕の世界を終わらせてくれるかもしれない。
あぁ万歳万歳。このちっぽけな僕もこの美し過ぎる全ても2秒で崩壊。さよならだ。
こんな都合の良い、もとい嬉しいことは多分無い。
……だから、僕の指よ迷うことなくこのボタンを押せ。押せ。押せ押せ押せ押せ押せ押。
駄目だ、指が動かない。
今更、なんの未練があるのだろう。この僕は。
ただ一つの動作が実行出来ない。
僕の思考は時計の様にグルグル回る僕の体はPCの様にカチカチ固まる。
動け動け動け。さぁ動けーーーー。
「藤原さん?」
「ふごけっ!!」
思わず僕は素っ頓狂な声を上げる。と同時に頭の中は一層加速して加速して地球を離れ遥か大宇宙……じゃなくて。
「大丈夫?家に何か用?」
あぁ、先輩先輩お願いだからそんな僕にだって心、コココロの準備が……。
何か言おうにも体と心の不一致に僕はただただただ成す統べなく……。
「いえ間違えました」
「そうなの家じゃなくてご近所さんに用事だったのかな」
「はい。そうだと思います」
あぁ、僕のチキンなんたる根性無し。
「それじゃさよなら!」
逃げますチャンスはピンチです。
せっかくせっかく先輩のご両親がいない日を狙って、と言っても表に車が無かっただけなんだけど来たというのに僕は又してもインタフォン一つ押せずに逃亡する。
こんな自分もう嫌だ!世界なんか滅べばいいんだ!!むき〜っ。
「待って藤原さん」
その時、僕には確かに見えたんだ天使。
「はひ!」
もう駄目、言葉とか忘れた怖い嫌。
「あの良かったら私とこれから買い物行かない?」
「え、何!?何処に!?」
なんだこの展開なんだよこの嬉しすぎるぞマジと書いて本気で!??
「うん新しい水着欲しくて」
「行きます行きます先輩となら何処でも地獄でも!!」
「はははっ、実はね今度彼と海行くんだけど参考にさせて貰っても良いかな?」
「藤原さんスタイル良いから一緒に水着、買おうよ。ねっ」
はにかんだ顔で先輩は僕に笑いかけてくれた。
「 」
言葉に出来ず世界なんて滅べば良いと僕は心から思った。