第84期 #4

全日本ウマシカ連合

 さて、我々全日本ウマシカ連合が主張したいことは以下の通りです。
 ここに「馬鹿」という言葉があります。見ていただいたらわかるでしょう。我々の漢字が使われているのです。このことに、どうしても納得がいきません。我々のイメージをひどく侵害している。そのため、この漢字の使用を即刻禁止していただきたく思っています。
 私事ではございますが、もともと一匹の鹿にすぎない私の所属していた団体は、奈良鹿連盟という県規模程度の大きくない団体でした。しかしこの鹿世界において、私が「馬鹿」という言葉に対して不満を抱いているかどうかという質疑を皆に問うてみると、思っていた以上に鹿たちの反響が大きかったのです。その反響は日に日に大きくなっていき、ついに一つの権利運動にまで発展しました。様々なデモ活動を行ってきたのはもちろんのこと、その運動の規模を広めるために、奈良鹿連盟以外の日本中の鹿団体に協力を依頼しました。「馬鹿」に対して不満を持っていたという点では他の鹿団体も同じだったようで、承諾を得るのにはそう時間はかかりませんでした。
 そして、日本中の鹿団体が結束している最中に、とある馬団体の伝書馬が我々のもとに訪れました。彼らの目的は「馬鹿」という感じが織りなす悪いイメージを一掃するため、我々関東ホース連合や西日本ヒヒン連盟も一役買わせてくれないか、というものでした。協力を断る理由など、我々は持ち合わせてはいませんでした。
 そのような経緯もあって、ついに我々は全日本の馬と鹿の権利を守るべく「全日本ウマシカ連合」を設立。今日の権利主張の日を待ちわびていました。
 こちらに、運動参加者全員の署名と蹄印があります。我々の世界には紙が存在しないので、鹿煎餅で代用させていただきました。ちょっとでも強く鹿煎餅に印を押そうとすると煎餅が割れてしまったり、鹿煎餅という食糧の多くを失ったことによる空腹に苦しんだりしつつも、どうにか全員分の蹄印を集められたことは評価してもらいたいものです。
 これを踏まえて、そちらさまにはいろいろ検討をしていただきたく思っています。具体例としては「馬鹿」という漢字使用の永久停止、代用として「莫迦」「募何」の使用を日本の教育機関で徹底。少なくとも、この要求以下になることはありえません。

 我々の主張は以上です。どうか、前向きな検討をよろしくお願い致します。

全日本ウマシカ連合代表 シカ



Copyright © 2009 謙悟 / 編集: 短編