第84期 #2
僕の彼女はテロリストだ。
けど僕は有紀が好きだから、そんなのは些細な事だった。
それにこんな世の中だから、そういうのも解らんでもない。まあそれはそれ、これはこれ。
それよりも深刻な問題がある。それは有紀が、爆弾を内蔵した爆弾人間だって事だ。
元科学者で今はテロリストである佐藤浩市似の父親に改造されてそうなった。それは必要な使命なんだとか。
だから何かというとすぐ爆発しそうになる。それで何度も死にかけた。
特に有紀は感情の高ぶりが影響して、すぐ左目の瞳が赤くなりカウントダウンが始まる。
喧嘩した時もそう。ワガママな時も遊ぶ時も。
『木場ぁ。私これ欲しいの! 早く買ってよ!』
赤くなってボン!
『木場ぁ。この長い髪の毛なーに! 十五秒以内に説明しろ!』
赤くなってボン!
『ん……あっ。やだ…………ダメ……死んじゃうー!』
赤くなってボン!
想像しただけでもあらゆる危険が潜んでいた。
今日、僕の部屋で有紀と一緒に映画を見ていた時。主人公の友人が死ぬ場面で、急に有紀が泣き出した。
つい最近、同様に爆弾人間である友人を任務で二人も亡くしたからだろう。
僕はビデオを一旦止めた。
「大丈夫?」
「……うん」
いつしか彼女も駆り出されて、死が二人を分かつ時がくるのだろうか。
僕の方が爆発しそうだった。
「……ごめんね。私こんなで、迷惑かけて」
「そんなのいい」
君さえいてくれれば僕はそれで。
「じゃお詫びに木場君って呼んで」
「なんで?」
「いつも呼び捨てで腹立つから」
有紀は恥ずかしそうにもじもじしていた。
「木場く……ん」
「素直で宜しい」
僕は有紀の頭を撫でた。
有紀は余計に小さくなると、その分こちらにすり寄ってくる。
素直な有紀が可愛かった。
「あ、目赤くなってる」
「え、う……どうしよ……」
「まさか。木場くん、木場く……起爆?」
「止まんない、止まんないよ!」
「大丈夫、冷静になって落ち着いて」
「ダメ! 止まんない!」
ここで二人して死ぬのか。けど一緒に死ねるんなら――。
目に涙を浮かべた有紀を抱き締めて、僕は叫んだ。
「うわあー! 好きだあー!」
ファイブ。
フォー。
スリー。
トゥ。
ワン。
『ボーンッ!』
「ちゃんちゃん♪ なーんてね! けど本当に爆発したらどうする?」
「それでも好きだ」