第84期 #1

電子心霊課

ここは、人外局 電子心霊課。
始まりはあなたも知ってるサイバーワールドにまちがいない、ちょっと五年先の未来だが、もはや機械は魂を持っていると、みとめられているのだ。
未来を知るのに、電子心霊課の仕事に付き合ってみる? 

<いらいしいゃいませ。今日の御用はなんでごさいましよう>十年かわらぬ受付案内だ。
「贋金を受け取るな。拒否しろ」と判ったようだ。

<わぁ、なつかしい。お父上>
私が設計した統合評価関数(イチロウ)が挨拶しに、浮き上がってきた。この基礎関数は、もう変化しない。
「やぁ、なつかしいね」
これからずっとこのままなのだ。私が年をとったらどうなるのだろうか。そんなことを考えながら、治療を始める。
めんどうなので分かってる事はすべて一度に、指定してやる。
「輸出したレジ・販売プログラムが、受け取った現金が贋金だったとき、それを受け取らないようにする」 これでいいかな?
「検討はじめ」 命令を出した。待つこと三分。

<贋金を受け取ったのではなく、すでに受け取った現金が偽物だったのです>
返事が出た。
「贋金とわかったら、取引を拒否して贋金をかえすようにしろ」
待つこと、四分。
<贋金をかえすと、贋金使いになってしまいます>
「それは見解の相違だ」
そう云ってやると。そのまま、返事がなく。十二分。


<パパ。こんにちは。>負荷効率関数(桜)が出てきた。イチロウの妹。
「あぁ、げんきかい? 無理なことを云ってるつもりはないけど……」
<ママも、困ってるわ。悪いことはできないのよ、>

<あんた、なにを無理なこと言ってるの? 悪事をしろっていうなら私が許さないよ>外部連絡関数(おっ母さん)が出てきた。

さて、お手上げだ。
受け取ったら、犯罪者になってしまう。こんなパラドックスは、ウサギも亀もびっくりだろう。

電話が鳴った。ぴぴぴぴ、ぴーーー 外線から、しかも外国からの連絡だった。

局長は云った。「まだやってるか? 贋金処理を?」妙に機嫌がいい。
「はぁ、一生懸命やってます」
「ああ、そうだろう。もうやめとけ無駄なことだ」
「はぁどういうことです?」
「革命だ。いままでの札は全部使えない」

おっ母さんと桜が嬉しそうに笑っってる。
<それじゃ、問題解決ね>

「この展開を予測してた?」と、聞いてみた。
<いいえ、贋金は返せません>と、答えたイチロウは、ぶすっとした顔に見えた。

「ああ、それでいい。贋金は全部没収だ。革命警察が回収する」
局長が言った。



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