第84期 #14
暗い森をただひたすらに歩いて、疲れたら座って、お腹が空けば木の実をとって、暗い森に静寂と何も見えなくなるような闇がおりてくれば、死んだように眠った。
「どうして」なんて聞かれても分からないし、聞く人も最初からいなかった。
救いの手はない、救われるほど不幸じゃない。
不幸は幸福な人が思う感情だから私は知らない。
歩いて歩いて歩いて……
どこに行くの?
何を見たの?
私って何?
疑問が浮かんでも聞く人が居ない、だから……忘れちゃう
まるで交互に空に浮かぶ太陽と月が「忘れてしまえ」とでも言うように、私の考えは消えていく。
「君、どこ行くの?」
モノクロの世界に色が……
「ドコ?」
私の世界にヒトが現れた、私はただ何時ものように歩いていたのに。
「ことば、分かる?」
コクリと首を縦にすれば納得のいった顔で笑ったがまた同じ質問を繰り返した。
「知らない」とだけ答えると残念そうな顔をした、でも私は悪くないから謝らない。
数日一緒に行動した、勝手にヒトが私のあとを歩いたために、一緒に行動をしているようになった。
数日が数ヶ月になって
数ヶ月が数年になってもヒトは着いてきた。
ある日ヒトは死んだ、どうも眠るのとは違うらしい……何故だか目から水が流れたけれど、貴重な水だから拭った指を舐めた。
ヒトは土に埋めた。
私は前に進んだ。
私は、前とはもう違ってしまった、自分以外のヒトが気になった、気になると今まで怖く無かったこの森が急に恐怖の対象でしか無くなった。
私はこの森で暮らせなくなった。
私は自由を失った、他者との交流で自分を森の一部だと考えられなくなった。
それでも不幸だとは思わない。
ただ……寂しい。
この感情だけがやっかいで私の心を唯一蝕んで、恐怖の対象になった森の中で涙を流させた。
待ってるから、何時までも私が自我を失うまで……。