第83期 #9

ラストシーンはせつなくて

男「小説を書こうと思ってるんだけど」
女「どんな小説?」
男「対話形式のわかりやすくて、ラストシーンが意外なやつ!」
女「それならもうすぐ完成するわよ?」
男「えっ! なんで?」
女「ここにあるじゃない!」
男「どこに?」
女「まだ気付かないの? あなたと私が今、話してる、この会話が終わった時、一つの作品が完成するのよ!二人とも実在の人物じゃないし、これ自体が小説そのものよ!」
男「そうか! 僕たち自身が小説なんだ! ん? でも、どうやって終わらせる? 君と僕、二人しかいないんだぜ」
女「そうね、小説はほぼ完成してる! 私とあなたは小説の登場人物。二人が喋っているかぎりこの物語は永遠に続いてしまう……二人では終わらせることはできない」
女「会話が途切れた瞬間、銃声が二発、セピア色の静寂を引き裂いた。男と女は、すべてを終わらせるためお互いの心臓を撃ち抜いた。そして会話は終わり、物語は完成した。と、打ち込んでくださいませんか。そこでこの小説を仕上げるのに四苦八苦している、あなた! これが二人のラストシーンです!」
作者「わかりました。そうします」
作者は物語の主役に従った。

会話が途切れた瞬間、銃声が二発、セピア色の静寂を……

二人は永遠に眠り、物語は完成した。
       〈完〉



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