第83期 #10

夏の続き

 夏休みの終わりにクラスの女子が交通事故で亡くなった。
 告別式からの数日は瞬く間に過ぎた。文化祭と体育祭を一緒にした学園祭が待っていたのだ。
 みんな初めての学園祭に沸き立っていた。みんな笑っていた。この間あんなに号泣していた連中も笑っていた。なんとも薄情だなと思っていたが、クラスで出すお好み焼きを試作して、応援合戦の練習をしているうちに、僕も同じように笑っていた。
 学園祭は一、二日目が文化祭、三日目が体育祭という編成で、体育祭は全生徒による応援合戦に続いて団対抗リレーという流れでフィナーレを迎える。学校やクラスに帰属意識を持たない僕のようなひねくれ者でも、否が応にも気持ちが高ぶってくる。
 体育祭の各種目は、全学年をクラスごとに縦に割った八つの団で競う。僕らは八団で、応援合戦の順番も最後だった。七団が終わってこれからというときに、クラスの女子が遺影を取り出した。
 殴られたような衝撃が走り、頭が真っ白になった。
 こんなことを言うのは死者への冒涜かもしれないが、その時僕は遺影の女の声を聞いた。
「そろそろ学園祭も終わりなんだから、その後はちゃんと喪に服しなさいよ」
 我に返って周囲を見渡しすと、みんながみんなうなだれていた。
 悲しいからではないと直感した。何人かを除いて、クラス全員がばつの悪そうな顔をしていた。
 振り向いた先には三年の団長がいた。あの顔は忘れられない。先輩は興ざめしていた。修学旅行も高校総体も終わり、この後はもう受験だけの先輩にとって高校最後のイベントだ。団長をやるくらいだからモチベーションも高かったろうに、最後の最後で水を差されたという顔だった。
 罪悪感。
 なんなのだ、この罪悪感は。学園祭を楽しんで何が悪い? そう思うのは僕だけではないはずだ。だが誰も何も言わず、ただ気まずそうな顔で俯いていた。
 卒業アルバム用の写真を撮っているカメラマンが近寄ってきて、僕らをけたたましいシャッター音とともに撮影し始めた。テレビでよく見る、マスコミに囲まれた容疑者の気持ちがわかるような気がした。
「カオリと一緒に、がんばろうね!!」
 遺影を抱えている女子が、泣き出さんばかりに叫んだ。教職員や保護者席から拍手があがり、続いて他の団からも拍手が起こった。僕らは鬨の声を上げるでもなく、とぼとぼと配置についた。団長は恨めしげに、拍手している他の団を見渡していた。その横顔も忘れられない。



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