第83期 #11

確変男になりたいよう

 朝九時からずっと打っているCR新世紀エヴァンゲリオン最後のシ者は、既に俺から4 yukichizを奪い取っていた。もうすぐ1000回転に至りそうであり、隣のバアさんが、気の毒そうな表情で俺の方を時折チラ見している。まだ前途有望そうな若者が、平日の真昼間に、出所の知れぬ金を延々とつぎ込んでいることに対する焦燥に似た感情が、ゆっくりと伝わってくる。珍しいことだ。自分の周りの台の状況に関心が向くことはあっても、その前に座っている人間に興味を抱く例は少ない。ましてやバアさんは6連して確変中であり、連チャンストッパーとなる次回予告演出がまさか出ないだろうな、と傾注していなければならないのだから、むしろこちらが緊張するというものだ。ああクソが。また金枠ステップアップで外した。普段は押さないチャンスボタンを連打し始めたら、もうヤメ時だというのが俺の設定した基準の一つだったが、今日は確変バアさんのお陰で、席を立つタイミングを逸している。くそお、その憐憫は稀有で尊いが、余計に俺を破滅へと導いていることに気づいてくれ。こんなことなら、牙狼を打っておけばよかった。などと、投資した事実をなかったことにして、別種の台でその貸玉を費やしていたら結果は違ったと考えるのも泥沼の証である。「あの溶解液、危険ね」。綾波レイは静かに呟いて、もう何度目になるのかも知れぬ闘いに赴いている。溶解液というよりも、溶解液とともに流れ落ちてくる数字の方が危険なのである。加持さんの「2」が残ってくれることを俺は祈っている。ああ、レイが俺の大当たりのために闘ってくれている。レイが不憫だ。覚醒モードでは単発図柄にされてしまっているリリス。レイは確変バアさんから見た俺のように不憫だ。確変中のバアさんが俺を不憫がり、確変図柄のレイは俺に不憫がられている。確変と確変に挟まれた俺はいったい何なんだろう。あれ、当たった。
 単発が出て時短が終わり、箱の中の球も店員を呼んで後ろに積むことなくごっそりと消えた。俺のハマリが解消されてしまうと、バアさんは俺の方を見なくなった。「使途、襲来」で単発を引いて、あっさり終わってしまったのだ。俺に割かれていた余裕の気持ちが、元通り、液晶に向けられたのである。俺はやけになって、マクドナルドの紙ナプキンを機械に入れようとし、出入禁止になった。所詮は単発男だ。ああ、派遣に登録しよう。引けるかな、確変。



Copyright © 2009 Revin / 編集: 短編