第83期 #5
陽が傾き、青い空が少し赤みを含んできた。
俺はバイクに跨り、走り出した。
仕事帰りの人や買い物をする主婦、部活帰りの学生や遊んでいる人を横目に俺は海へと向かった。
小一時間かけて海に着き、海岸にある防波堤に座り、太陽が海に落ちていく様を、煙草を吸いながら見守った。
ああ、今日も一日終わってしまった。
バイクで海に来てそう思うのが、一日の最後の日課になっていた。
仕事のある日は職場から直で此処に来てはこんな事をしていた。
陽が完全に落ち、空は星が少し輝き、海は深い闇を震わせ、地上は傲慢な光で溢れていた。
俺はバイクに乗って、来た道を戻り始めた。
小学校、中学校、高校、大学。
そして就職して、仕事をして生きていく。
平穏で幸せな人生なのだろう。
だけど、何かが違う。
いつからかそう思っていた。
外灯に照らされた道をバイクのヘッドライトで照らされている方向へと疾走した。
遠くの方の信号が赤になり、俺はブレーキをかけ、停止線の前で止まった。
ふと横を見ると、外灯の無い道に何かが動いたのが見えた。
俺はそれが何なのか凝視した。
それは不思議なものでも何でもなく、ただ女性が道を歩いていただけだった。
外灯に照らされぬ道を、物怖じせずに平然と一歩一歩前へと進んでいた。
その女性にとってはもう慣れている行為なのかもしれない。
けど、俺はその姿を見て、格好良いな、と思った。
信号が赤から青に変わり、俺は外灯に照らされた道をバイクで走り去った。