第83期 #19

恋心談議

「……ちょっと訊き辛いことなんだけど、良いか?」
「何だ? らしくない」
「人を好きになるってどんな気持ちかな、って」
「っ! 本気か?」
「まぁ、……な」
「人を好きになる気持ち、か。……よく言われることだけど、その人のことばかり考えるようになる」
「うん、それは確かにある」
「何をしたいかは人それぞれなんだろうけど、何にしても一緒にいたいって想像が止められなくなって、どんなことにも集中できなくなる」
「何って……、まぁ、やらなきゃいけないことまで放り出しそうになってるのは間違いないな。今もう、結構危ないところだ」
「そりゃ間違いないな、うん」
「やっぱ、そういうものか」
「それで、まだ相手に告白してないんだろ? そういう時って、期待と不安が混じって不安定になるって聞く」
「まったくもってその通り」
「でも、そういう時間がある意味幸せなのかもしれない」
「なんで?」
「まだ決まっていないことが、いろいろ想像させてくれるから。決まっちゃえば、めでたく両想いになれれば良いけど、振られたらそれで終わっちゃうし、最悪傷だけが残る」
「そう言われればそうかもな。嫌な想像もあるし、想像で我慢しなきゃいけないのが辛い時もあるけど、今なら想像で楽しんでいられるってところ、ある」
「でもまぁ、ストレスだよな。元気ではいられないか」
「よくわかるな」
「ちょっと痩せただろ。お前緊張に弱いもんな」
「バレたか。飯時に気になったりすると、飯が喉を通らなくて。弱った顔なんか見せたくないのに、何とかならないかな」
「うん、まぁ、そうだな……。本気、なんだな」
「そうみたい」
「……」
「……どうした? 難しい顔して」
「……うん、お前やっぱ早く告白した方が良い。げっそりしてからじゃ遅いと思う」
「そうなのか? だってさっき、告白前も幸せな時間かも、って言ったじゃんか」
「その、何て言うか……。お前がこのままだんだん元気がなくなってくのは、それをただ見てるのは、ちょっと嫌かなって」
「そうか……。じゃあさ、もし振られたときは」
「それはっ、……いやいや。その時は、慰めてやるよ」
「……わかった。なら、告白する」
「……ああ、行ってこい」
「いや、その……」
「ん?」
「実はおれ、お前のことが好きなんだ! 好きみたい……なんだ」
 俺は驚きに息が詰まった。もしもこのまま俺が呼吸困難に陥ったら責任を取ってお前が人工呼吸しろよな、薄れゆく意識の中で俺は強くそう念じた。



Copyright © 2009 黒田皐月 / 編集: 短編