第82期 #4
私は人を殺してしまいました。ついカッとなって近くにあった花瓶で彼の頭を……。
でも彼が悪いんです。彼がアレをしてくれないから……。
彼とは幼なじみでした。昔から金にはだらしの無い男でしたけれど、私に対していつもアレをしてくれたから、私は気兼ね無く彼に言われるがまま金を工面してあげました。
私は彼のアレが好きでした。
きっと彼もアレに喜ぶ私を見て嬉しかったに違いありません。それなのにどうでしょう? ここ最近の彼といったら、私から金を借りるだけでアレをまったくしてくれないではないですか。
金を返せと言いたい訳ではありません。ただアレをしてくれたらそれだけでいいのです。どうせ彼にはアレのよさなんてわからないんです。しょせんアレなんですから、わからなくても仕方がないかもしれません。でも私はアレをしてほしいのです。ただアレをしてほしいだけなのです。
ついに堪忍袋の緒が切れた私は、高層マンションの四十四階にある彼の部屋に押し掛けて、これまでの鬱憤を洗いざらいさらけ出しました。するとどうでしょう! 彼は私のまったく想定していなかったことを口にしたのです。
アレなんて、他の奴でもしてくれるだろ?
何てことでしょう! 私が彼のアレでなくては満足しないことは、彼もわかっていたはずなのです。それなのに彼は平然と言ってのけたのです。
私は彼のアレを、彼にアレをしてほしかったがためだけに、腐れ縁のように繋がっていただけと言っても過言ではありません。それが二人の関係同様、硬いガラスの花瓶に大きなヒビが入るほど、何度も、何度も彼の頭を叩きました。息の根が止まった彼を見て、やっと我に返ったのです。
アレが! 彼のアレが!!
なんてことをしてしまったのだ。これでもう二度と彼にアレはしてもらえない……。悔やんでも悔やみきれません。彼でなくては駄目なのです。彼のではなくては満足しないのですから。ああ……これからどうすればよいのでしょう! 彼のいない人生、いや、彼のアレのない人生なんて考えられません。もう生きている意味なんてないのです。彼の元へ、そう天国に行けば彼にまたアレをしてもらえるかもしれない……。そう思った私は、躊躇なく彼の部屋の窓から飛び降りました。遠い遠いあの場所へ。真っ暗な闇の中をさまよい続けました。そして気がついたときに目の前に現れた光景を見た私は驚愕の声を上げました。
あれ?