第82期 #3

自動記憶装置

「やった……ついに出来た」
 研究室で博士が思わず叫んだのはいうまでもない。
 自動記憶装置が完成したのだ。この装置はその名の通り自動で記憶してくれる。研究者は覚える事が多すぎて色々と忘れる事も多い。何々さんと食事の予定があっただとか、あの部品はどこへやっただろうとか……。
 このビリヤードの白玉によく似たボールは、日常生活での発言を全て録音してくれる。それだけじゃない。
「あれはどこへやったかな?」と聞くと一瞬の内に検索してその在り処を教えてくれる。
 まだある。
 少しへこんだ所を押すと録画も出来るし、「これはどうしたらいいかな?」と聞くとネットや自分の中にある情報を瞬時にまとめて綺麗な女性の声でアドバイスまでしてくれる。秘書でありパートナー。それが今完成したのだ。
 それからの博士の仕事振りは順調だった。
 あのボールが思っていた以上の活躍してくれる。第二の脳みそと言ってもいいだろう。博士が二人いるようなものなのだ。そんなわけで、博士は重要なポストにのし上がることができた。

「大事な仕事が入った。GM社のロボットを作ってくれという申し出だ。これはGM社だけじゃない。上手くやれば歴史に名を残すのも夢ではないぞ。記憶しておいてくれ」
「わかりましたわ」
 重要なポストにのし上がっても博士の意欲は衰えない。色々な仕事をこなし、周りからも尊敬のまなざしで見られる。自身それが当然だと思っているし、またそれが快感でもあった。

「なんて事だ……なんて事を……」
「いかがなさったの?」
「GM社に言われて作っていたロボットのエンジンがどこにもないのだ。あれが無いと今日の発表に間に合わない! そんな事になったら……」
「あら、あれなら私が発注をキャンセルしましたわ」
「な、な、なんて事をしてくれるんだ! このダメ機械めが」
「ひどい……博士がいらないと言ったからキャンセルしましたのに」
「そんな事は断じて言っていない! 言ってないぞ」
「言いましたわ」
「故障でもしたのか。私が言ってないと言ってるのだから言ってないのに決まって……」


『ん……あぁエンジンはキャンセルしておいてくれ。自分で作った方がいい物を作れるさ』

 ボールから博士の太い声が響き……。



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