第82期 #29
図書館の入り口。金属探知機が鳴った。
こんな障害があるとは思わなかった。
ひとりの警備員が近寄ってくる。
すこし離れた壁際にもうひとりヘッドセットマイクで通報している。
銃を持って入館しなければせっかくここまできた意味がない。
いままでなんども困難を切り抜け道をひらいてきた。いま使える作戦はないか、……。
待ち伏せされていたこともあった。海の狼たちは青紺に広がった大西洋にひそんでいた。
チェックされたらひとたまりもない、しかたない。
右手でほうきを持つように銃身をにぎりコートから取り出してぶら下げてみせた。
警備員ははっと身構えた。さらに近寄ってくる。
「これは研究用だ」と……なんでもないような顔をした。
「とんでもない、金属は持ち込み禁止。もちろん銃器などは絶対だめ」
警備員は声を荒げることもなく言った。
「それがあんたの研究資料なら、とんでもなく悪い日だよ。きょうは上院議員さんのパーティなんだ。さあ、こっちへわたしてくれ」
取り上げてしまえばあとは老人の繰言につきあっても良いと考えたのかもしれない。ゆっくりと手をのばして銃を取ろうとした。
「これは、杖だ。生きているなら戦いはつきものだ」
銃を取られたらつぎは逮捕される。おしまいだ。ここまでか……時間かせぎにもならないことをいいながら――わたしは考えつづけ。
ふっと、笑いながら警備員は応じた。
「御老人、もう戦うこともないでしょう」言葉には揶揄する響はなかった。
「馬鹿者! お前のようなノータリンがこの国をけがしているんだ。まったく情けない」
「はぁ、しかし、――わたしと銃は無関係です。とにかくそれを預かります」
警報が鳴りつづけている。わたしは銃をはなすきはない。
これが仕事だといわんばかりに、情け容赦なくのしかかるように威嚇し銃を取り上げようとする。
これが国家権力のやりくちだ、瞬間、この警備員への情けを忘れた。
右手がすっ、と動き、対面する警備員の下あごに銃口がせまった、左手を伸ばし引き金を押した。
防弾チョッキに沿って弾はあごを突き上げ、追いかけて噴出した発射音が高い天井に広がった。吹っ飛ばされて仰向けにひっくり返ったむざんな死体。死顔はきれいだった。
きょうはここで親玉に意見してやるつもりだったのに、これでまた失敗だ。情けない。
皆がいっせいに床に伏せ、壁際の警備員がこちらを狙って撃った。
俺の話を聞けそうすれば何もかもうまくいくのに。また失敗だ。情けない