第82期 #22

児っポwriter

 翼姉が「あいつ絶対殺してやる」と呟きながら首を吊って死んじゃったのが昨日のことだった。夜明け前の真っ暗な部屋は、壁に備えつけられた幾つかのランタンで照らされているだけだったのだから、寝ないでゴソゴソと何かしてたら確実に視力が悪くなるので、やめた方がいい。当たり前のことだった。でも、翼姉は何かしてたわけだ。
 死んじゃえば、目が悪くなろうがなるまいが、構いやしなかったんだろうけど、死に様を見守っていたあたしや澄佳は困る。……よくできている。翼姉はあたしより歳が二つ上ということを抜きにしても頭がよかったから、そういう計算は得意だった。二つ下の澄佳は、ドジでのろまですぐ泣く子だから、翼姉が遺していった色々なメッセージには当然気づいていないだろう。
 あたしたちが仲良く閉じ込められているこの石牢の中には幸福も安息も希望もなかった。時々、ニヤニヤ笑ったおじさんがやって来ては、あたしたちの誰かを連れていって、お酒を飲ませたり、ビデオを見せたりした。夜遅くになってようやく解放されると、ボロボロの毛布に包まって身を寄せながら短い睡眠をとる日々が続いた。
 そんな現状に対して、翼姉は一つの解答を見せたのだ。つまり、あたしたちが等しく着せられているボロ切れは、首を吊る道具として使えることであるとか、この牢獄の中で“最高級”の知識や知恵を動員して得られる最善の脱獄方法は、所詮そんなものでしかないんだよ、という忠言、もっといえば、暗がりで姉の死を看取って目を悪くしている場合ではない、私はそんなの関係ない世界に行くんだよ、さあ、あんたたちも早くおいでなさいな、という慈愛に満ちた促し、あとは、怨念の怪物にでも成り果てて、あの外道どもを呪い殺せるかもしれない、というオマケじみた願望……そんなものをない交ぜに詰め込んだロクでもないメッセージを、翼姉はあたしたちに送ったのだった。あの凄絶な自殺によって。それを止めることは、できなかった。一回性を理解せず怯えるだけだった澄佳にはできなかったし、あたしにも、できなかった。



Copyright © 2009 Revin / 編集: 短編