第82期 #15
俺はいつの間にか迷い込んだ生い茂る雑草によりろくに先が見えない獣道を駆ける。駆けながら聞こえてくるBGMは足音と俺が草へ体当たりする効果音だ。俺は音を邪険に扱い、膝を上げる。足が進む。
足は石と蔦により数秒間隔でつまずく。転ぶ寸前に体勢を立て直し自身を一瞥する皮ふは葉っぱで切り傷が無数にあり、息はあたかも体育の授業での1500m走後、鬼教師による追加の500mを走り終えた後以上に上がっていた。だがまだ行けるさ!
こうなった元凶はたった1つ。俺が小5の時に親を口説き落として買ってもらった愛犬コロ――名前に似ずシェパードなのだ――が俺の親から貰っていたらしいおもちゃを友達と遊んでいた際にうっかり裏山へ放り投げてしまったのだ。中々見事な投球だったと思う。一応サッカー部なので言いたくない特技だと思うけどね。
まぁ、そうしたら寝転がっていたコロが呆気に取られ俺を見つめ、数瞬。俺へ吼え走ってきた。俺は驚き逃げ、友達は笑ってどこかへ行ってしまった。友情なんて所詮平常時だけさ、この野郎が。
肺が息を吸う量を確実に減らしていく。だが俺は減速なんてしない。俺の意地とコロの心との勝負だからだ。
枝葉を抜け道を蹴り終わると小さい池に出た。小川を小魚が泳いでいる。あ、今一匹跳ねたぞ!
綺麗に澄んだ水は14年生きてきたこの町で俺が見てきたものの中で一番神秘的に感じる。自分だけの秘密の場所を見つけた高揚感と達成感が、自然に俺の脚を止めさせた。
はぁはぁ、はぁはぁ……。息を整えるために足踏みをしながら恐る恐る振り向き俺はコロを確認する。……居ない!?足音もしないぞ?
あ、やられた!こんな道へは入った事がない、おそらくコロはおもちゃをもう見つけていつもの軒下に撤退しているだろう。俺は1人で一体何分走っていたやら。
アブラゼミと蚊が青空へ旅立つのを俺は見上げている。青空が橙を手に入れ、青を諦めた昆虫たちが俺を襲う前に、さっさとこの道を抜け出そうか。
帰ったらコロを撫ぜて、薄情物共へはゲンコツの1つでも入れてやらないと俺の今日は終わってくれないだろう。
木漏れ日が俺と足元の花をライトアップする。もう一度天を仰ぎ、俺は帰るべき場所へと歩を進めた。