第81期 #9

 あの人は誰だろう?
 なぜあの人はあんなに楽しそうにしているのだろう?
 俺は毎日がつまらないのに、なぜあの人はあんなに笑っているのだろう? 
 俺は何も感じないのに、なぜあの人はあんなに輝いてるのだろう?
 俺もあの人のようになりたい。でもなれない気がする。あの人は選ばれた人。俺は違う。
 運命は変えられない。
 運命には逆らえない。
 運命は受け入れるしかない。
 輝く彼女は俺に近づいてこう言う。
「なぜ君はそんなに頑張るの?」
 いや俺は頑張ってなんかいない。頑張る気になんてならない。頑張っても自分は変えられない気がするから……。
 輝く彼女はこう言う。
「君は君でいいじゃない。君は十分頑張っているよ」
 その時僕は彼女の心の中を見た。僕の心の中は小さく自分がいるだけで精一杯なのに、彼女の心の中は広く、まるできれいな草原のようだった。
 君のようになるにはどうしたらいいの?
「私は別にいつも自然体でいるだけよ」
 嘘だ!
 何か方法があるはずだ。それが何なのか教えてくれ!!
「もっとちゃんと探して」
 彼女はそう言い残して行った。輝く遠い世界へ。
 俺は彼女を追いかけようとしたができなかった。追いかけようとも、追いかける翼がなかったから。翼を手に入れよう。もう一度会って話を聞こう。それから毎日どうすれば翼が手に入るのか考えた。
 ちゃんと探して?
 さっぱりわからない。
 理解に苦しんでとうとう投げ出した。もうどうでもいい。俺なんかもうどうでもいいよ!
 その時、そんな自分が嫌いな自分がいることに気づいた。まだあきらめたくない自分が自分の中にいた。お前がいるからいつも苦しいんだ。いつも抵抗してそんなに俺が苦しむのを見たいのか! もう一人の自分は何も言わない。ただじっとしているだけだった。どいつもこいつも、ちくしょう……馬鹿にしやがって……。
 そして気がついた。俺って馬鹿だったんだ。これじゃ見つかるものも探し出せないな……。
 変に納得がいった。その時本当の自分の心が開き、広がっていった。この感じ、あの子と同じ世界だった。翼がなくても、ここに辿り着けた。
 希望の光が輝き、新しい道が開ける。そんな気がしたんだ。
 なぜ君はそんなに楽しそうにしているの?
 なぜ君はそんなに笑っているの?
 なぜ君はそんなに輝いているの?
 誰かがそう聞いてきた。俺は彼女に近づけたのかな?



Copyright © 2009 新田大輔 / 編集: 短編