第81期 #6
君は、ゆっくりと目を開いた。意識がまだ確立されておらず、再び目を閉じ、さらに また開ける。その繰り返しを数回行ってから、何とか体を起き上がらせた。日はまだ昇っていないようだが、時間の問題だ。既に空は白みがかかっている。
大きな深呼吸をしてから、まだ涼しい外に出る。
肌寒く感じさせる風が荒野をかけ巡っている。君は一瞬だけ体を固くしたものの、すぐに解いて目的地に向かう。淵について下をのぞき見る。深い穴の下に水が小さな輝きをたたえている。君は小さく頷いて、それから下へと続く階段を下りて行った。
水は冷えていた。しかし決して攻撃的なものではなく、柔らかく、むしろ心地良い程度だ。君が手ですくいあげる度に、大きな波紋が残る。泥が混じって水の色が悪くなるころ、君は階段を登った。
太陽が姿を現す。暑い日差しが今日も荒野を焼く。しばらくするとさっきまでの風もただの熱風と変わる。君はため息を一つ吐く。それから小屋の中に戻った。
気づいた時、既に君はいなかった。どこに行ってしまったのかと辺りを見回してみたが、どこにもいる気がしない。とりあえず探すのはあきらめる。
いつの間にか空は晴れ渡っていた。さっきまで降っていた雨は、小さな水たまりを残して消え去ったようだ。風が水の上を優しく撫でている。
「うーん」
大きな伸びを一つ。そして立ち上がる。窓から見える空は橙色に染まり、太陽がもう沈もうとしていることを知らせてくれる。気温はもう下がる一方だ。明日また日が昇るまで暖かくはならない。
だが私は、この肌寒さが嫌いではない。むしろ好きな方だ。夏のジメジメした空気と違って、さらさらで澄み切っている。着々と冬へ向けて地球は準備を始めているのだ。
――また、冬が来る。君と初めてあったのは冬だった。窓の向こうに見える橙色は薄くなり、夜の到来を告げる。
私は永久の安らぎを求めている。そう、私は探求者。約束の楽園を求めて独り彷徨う哀れな旅人。
彼方の地は、気の遠くなるほど遠くそれと同時に手を伸ばせば容易に手の届くほど近い。時には、水中を。時には、燃え盛る業火のなかを。時には、蒼く澄み渡ったあの大空を。
私は求め彷徨った。そして、ついに私は辿り着いた。美しい真赤な大海に浮かび私は瞼を閉じた。それと同時に久遠なる闇が私を優しく包み込んだ。