第81期 #44
むかしむかし、とおいとおい異国の地に立派なお城がありました。
そこには領主様と、たいそう美しい奥様がすんでいました。領主様はまわりではしらない人がいない立派なおかたです。
領主様は何不自由ない暮らしをおくっていたのですが、たったひとつ、たったひとつだけ悩みがありました。
「どうして私は、子宝にめぐまれないのだろう……」
奥様とはたいへん仲がよろしかったのですが、子供ができなかったのです。いろんな方法をためしたのですが、いっこうにききめがありません。
ほとほと困り果てた領主様は、おふれをだしました。
「だれでもいい。ききめがあった者にはほうびをやる」
おふれをだしてからしばらくすると、ひとりの男がやってきました。男はまっくろな衣に身をつつんで、たいへん気味がわるかったのですが領主様は威厳をくずさずにたずねました。
「おまえにはできるのか?」
「もちろんでございます。効果がなければ、いかようにしてくださってもかまいません」
そういうと男は、領主様にあるじょうけんを出しました。
「奥様におまじないをかけますので、そのあいだは誰もちかづかないようにしてください。それと、けっしておまじないの方法を奥様からきいてはなりません」
言われたとおり男がまじないをかけているあいだは、領主様も家来も奥様の部屋にはちかづくことはありませんでした。そして、まじないの方法をいっさい聞くこともしませんでした。
まじないから一年がすぎると奥様に似たかわいい女の子がうまれました。領主様はたいそうよろこんだのですが、すぐにまた悩むことになりました。
「この城のあととりとなる男の子がほしい……」
領主様はふたたびあの男をよびだしました。
こんどもおなじように、奥様にまじないをかけているあいだは領主様も家来もちかづきません。そして、まじないの方法をけっして聞くことはしませんでした。
まじないからふたたび一年がすぎると、奥様に似たげんきな男の子がうまれました。領主様はそれはそれは、たいへんよろこびました。
「そうだ、あの者にほうびをやらないとな」
領主様はみたび男をよびだしました。しかし、男はどうしたわけか、ほうびをうけとろうとはしませんでした。
「めっそうもございません。わたしにとってのごほうびはこの二人のお子様ですから」