第81期 #43

伝奇「雷轟万化蛙物語」

 雷に打たれたその瞬間、僕の体は小さく縮んでカエルの姿になっていた。最初は驚いた。見える景色が一変した。体の感じも全然違う。戸惑う僕を置いてけぼりに、遠い空で轟く黄色い筋が憎かった。
 暫く途方に暮れていた。しかし悩んでいても仕方ない。元来こういった事には慣れている。全てを前向きに生きていこう。僕は心にそう決めた。
 気付いてみればこの体、どうやら小粋な雨ガエル。徒に蓄えていた口髭は緑の細長い二本の髭となり、どうだなかなか立派なもんだ。
 思考がこう働けば早いもの。自慢げに二本の髭をピクピクさせてみる。すると眼下から誰かの声が聴こえてくる。

「あぁ、なんてこった! 体がミミズになっちまったよ! 明日は大事な会議があると云うのに。よりによって何でミミズなんだ!?」

 ミミズが一匹嘆いている。頭部をクネクネ動かしている。またおかしな蝶ネクタイを着けている。しかし、そのネクタイには見覚えがある。このミミズ、どうやら先まで僕の隣に居た課長だと理解した。
 僕は課長がヘビに化けなくて良かったと思った。これまでに行ってきた徳によって、化ける体の大きさが変わるのかもしれない。僕は半ば反射的に目の前のミミズをぱくりと食べた。

 カエルになったあの日の満月が、細くなって、無くなって、またまん丸になった。人生が一転してから一ヶ月が経っていた。
 仕事には追われない。体にも慣れて不自由ない。不景気? そんなもの関係ない。この町は食料で溢れている。巧みなハエの捕り方を教えてあげようか?
 日中は公園にある噴水の縁にぴたりとくっ付き、気長に一日涼んでいる。嫌いな上司がヘビにならなければ、この世界、結構気楽にやってける。

 人間だった頃の彼女を見つけた。彼女もカエルになっていた。僕は嬉しかった。夫婦(めおと)ガエルだと喜んだ。これから夫婦重なって、二人でのんびり生きていこう。僕は彼女の所へピョンピョン跳ねていった。
 彼女の体は僕よりずっと大きかった。牛ガエルだ。やったね!彼女。毎日真面目に働いてきたのがここにきて報われたってもんだ。僕は彼女に声を掛けた。

「よぉ! 元気?」
「元気じゃないわよ! こんな体でどうやって生きていけって云うのよ!」
「意外とやってけるもんだよ」
「何云ってんのよ! こんな醜い体やんなっちゃう!」
「そんな事ないよぉ。とても素敵だよ?」
「え〜ん、え〜ん……。グォゥグォゥグォゥ」
「ケロケロケロ……」



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