第81期 #2
先ず見えたのは白だった。白に線状の筋が通っている。それは高い天井だった。よく見れば丸みもある。
ドーム状の天井か? ここはどこだ?
私は視界を360度動かす。周り一面緑がある。
畑か? なぜ私はここに?
解らなかった。それだけではない。身体がピクリとも動かなかった。
一体何がどうなっているのか。いや、冷静になって考えよう。
ここは多分ドーム内の空間。結構な広さもある。周りの様子を見るに、プラント施設だろうか。屋内で人工的に植物を培養・繁殖させる区域。
なぜ私がそんな場所にいるのか。そして動けないのか。解らない。もっと考える必要がある。
――そもそも、私は誰だ? 何者だ?
考えた結果、やはり解らない。何かがすっぽり抜け落ちていた。
その時、低い駆動音と共に白の天井が動き始める。上下が口のようにスムーズに開かれると、そこには黒い空があった。
星が瞬く夜空かと思ったが、違う。青く美しい惑星が見える。これは多分宇宙空間。だとしたらここは宇宙船か何か。
『気がツいタか』
デジタル音が混じった声が頭の中に響く。
見ると奇妙な生物が立っていた。白い肌の子供みたいな風貌で、腹と頭部が異常に肥大している。口はなく、目が大きい。
後頭部の半分は機械で中の空洞が見えていた。
『収穫ノ時』
彼はそう言うと私を掴んだ。
『地球で育ッたソの中ノ一部だケが適応スる』
彼が私を引っこ抜く。そして私の皮を剥き始めた。
――そもそも動けない私がなぜ周囲を見渡せたのか。目さえ動いた感覚もない。大体私に目など付いているのか?
機械仕掛けの後頭部がぱっくり開く。彼は自分の空洞に私を押し込んだ。
私の脳が頭の中に収納されて後頭部が閉じた頃、私は明確な自己を取り戻していた。記憶も鮮明となり全てを把握した。
私は自分が根を張っていた仮初めの地を見下ろす。そこにはモニターと一体型のアイセンサーが設置されている。接続されていたセンサーが今まで私の目の代わりになっていた。
――自分の脳を地球上で育み、選別してプラントに移した後、刈り取る――。
私達は太古の昔からそれを繰り返してきた。私達の脳は地球の環境でしか成長出来なかったから。
その過程で、私達の幼精脳は地球人類の食用にもなってしまった。悲しいことだ。
私は自分の脳を育んだ青き故郷を眺めた。
遠ざかる美しい母に別れを告げる。
私の目から一滴だけ涙が零れた。