第81期 #15
街で売られている煌びやかな毛皮のコートにうんざりとしながら、道を歩く。
肉屋の前はもっとうんざりだ。
何がロース美味いだ、ヒレが最高級だ……寒々しい。
裏路地まで歩いてくると、ネコが飛んできた。
ネコの悲鳴が聞こえた。
次に少女の笑い言葉が飛んできた。
──可愛そうに……助けてと悲鳴をあげて意思を伝えているのに……。
ネコを優しく抱きしめようとすると、少女は私からネコを乱暴に奪い取り、地面に叩きつけた。
ネコの悲痛な声が漏れた。
そして少女が私を向いて口を動かした。
──「ネコの言葉なんてわかるワケがないでしょ?」ですか。
──でも痛がっているのは分かるんじゃないんですか?
──言葉が通じないんだから、関係ない。そうですか……。
少女の表情には三日月が浮かんでいた。
少女が壁にたたきつけられた。
少女の悲鳴が漏れる。
遠い異国の地、柄の悪そうな男が下種な笑いを浮かべる。
いつぞやネコを虐めていた少女は、私を見て助けを求めた。
──『……言葉が分からない相手に残酷になれる』……。
男は私を無視して、少女へと近付く。
目の前の異人に萎縮する少女。
──全くその通りです。何を言っているのか分からなければ……
私は少女の姿をネコに重ねた。
──どんなに残酷なことも気付かない。あなたの同一種ですね。
服が引き裂かれる。
少女の悲鳴。
それらの音は相手には届かない。
肉屋の前でふと足を止める。
赤く筋の通った肉。それを見て思わず目を背ける。
──特別な肉が手に入った? 身が引き締まったオスの肉?
──いえ、遠慮しておきます。肉が苦手なんでね。
だって、そうでしょう?
ここに並んでいる肉は雑音の中から生まれた肉に違いない……。
だけど、その雑音が音となり、言葉の中から意思を感じ取れるのなら……
とてもそこの肉を食べようとは思わない。