第81期 #14

恐怖

布団の中で私は息を潜めていた。
暑い…今は夏、布団の中に潜っていればそれはそれは、汗がふきでて頭が朦朧としてくる
だが、私は顔をあげようとはしなかった。
布団の中で耳を塞いでも聞こえる女の喘ぎ声、獣のような男の息遣い…あれは私の母と父。
いつも私を抱いてくれる母の手は父の男根を握り、いつも私を撫でてくれる父の手は母の乳房へとのびて、快楽を貪っていた…

翌朝の私はパジャマをぐっしょりと濡らし、顔は青ざめ、濡れた服で一晩を過ごしたせいか風邪をこじらせていた
心配した母が私のパジャマを脱がせようとボタンに手をのばしてきたが、昨日の恐怖により母の手を振り払ってしまった
「どうした?」
私を心配する母の顔はいつもと少しも違うところはなかったが、母に隠された獣のような裏の顔を知った今となっては、素直に甘えることは出来なかった
私は首をふり、自分でパジャマを脱ぎ始めたが、熱のせいか、指に力が入らず結局は母に脱がされた、布団に寝かされ私はふと、眠りにつく瞬間に
「わたし、お母さんのこと…嫌いになるかもし…れない…」


「あ゛ぁー…んあぁーう゛ぁー」
生命の誕生、女性にとっては今までで一番とも言える苦痛と喜び、達成感

「女の子ですよ」
私は喜びと達成感の中で看護師の声を聞き、BGMとして我が子の産声を聞いた。
私は産後の疲れからか我が子を一瞬抱いた後眠りについた

「わたしお母さんのこと嫌いになるかもしれない」幼い私のあの日の言葉が夢の中でこだまする、この娘も私を恐ろしいと思うだろうか、汚らわしいと私が触れることさえ、嫌がるだろうか…
そして、この娘も好きな人と出会い、これを素晴らしいことなのだと、感じるようになれるのだろうか…



「ねぇ…ママぁ…」
娘が言いにくそうに私に近寄る
「なぁに?」

私は娘が言う言葉をきっと幼い頃から知っている。



Copyright © 2009 のい / 編集: 短編