第81期 #13
「遺産はどうなるのかな」
「まあ、三等分だろうな」
「遺産がそんなにたくさんあるとは思えないけどね……」
父親の葬式も終わり、三人の兄弟が遺産について話し合っているところへ、父親の弟、つまり彼らの叔父が入ってきた。
「葬式が終わったら、これを再生してくれって……。兄さんの遺言かもしれない」
そう言って差し出したのは、一本のカセットテープだった。親族を集めて、さっそく再生してみる。
『……えー、わしもそう長くはない。そこでな。遺言しておこうと思う――』
懐かしい声だった。兄弟達は三人とも、母親の死に目は揃って見届けたのだけれども、父親の死に目には間に合わなかった。
『……あー、遺産についてだが、三千万ほどある』
「そんなにあるのか!」
長男がびっくりしたように呟く。だが、驚くのはまだ早かった。
『……しかし、お前らみたいな親不孝者に、やる金はない』
「なんだって!!」
全員が耳を疑った。
『……遺言だ。わしの全財産を、誰にも使われないよう、庭の松の木の下に埋めてくれ。以上』
再生が終わる。重苦しい沈黙。
「続きは無いのか……」
耐えきれなくなった、次男が口を開いた。
「親父はいつも、俺たちを驚かせるのが好きだったけれど……」
「ちょっと待って」
三男があることを思い出した。
「確かカセットテープを使った遺言は無効なはずだよ」
「本当か!!」
「そういえば、前にテレビでそんなことを言っていたな」
「ああ良かった。無効だ、無効!」
「じゃあ、仲良く一千万ずつ分けよう」
兄弟達は遺産を三等分することで納得し、カセットテープも処分してしまった。
子供達の様子を雲の上から見守りながら、男は残念そうに呟いた。
「やはり言うとおりにしなかったのか。松の木の下を掘っていれば、一億円の当たりくじが埋まっていたのに……」