第81期 #12

 日曜日の夜は恐怖だ。布団の上でやり残したことを探す。明日への、今週への漠然とした不安が、胃を押しつぶす。
頭を掻き毟りたくなるが、頭髪の残量が気になってやめた。つむじを触るたび母に、「禿げてない?」と、頭頂部を向けていた頃が懐かしい。
 そうだ、明日の一講目は、確か出席を取らない。電車で大学まで一時間と三十分なので、普段は六時半に起きなければならないが、これなら八時までいける。明日の朝に対する絶望感が少し和らいだ。
 ふと机の上のパソコンに目をやる。傍らにペンタブレットが備わっているが、技術が伴わなければ、正に宝の持ち腐れだった。一万四千円程もしたのに。パソコンのCドライブの奥には、見られると恥ずかしい、書きかけの物語が、エロ画像と一緒に眠っている。夢想を表現する技術が欲しい。拳をぎゅっと握ると、爪が掌に食い込んだ。痛いからすぐやめた。
 二講目の生物学は、先生がレジュメを配って、それを読み上げるだけの、無意義な講義だ。レジュメを後から友達にコピーさせてもらえばいい。そんな友達はいないけど。
 その後には昼休があるので、三講目に間に合うには十時に家を出ればいい。
 高校の頃の皆はどうしているだろう。どうしようもないゴミッカス達だったけど、今では自分もその一員であった事を思い知らされる。夏休みに皆を誘って遊ぼうかと考えたけど、二ヶ月も先の事だったので、考えるのをやめた。
 三講目はなんだったろうか。もう学校のことを考えたくない。
 時計に目をやると二時を三分程回っている。丑三つ時に部屋を暗くするのは厭だ。傍らに置いてあった漫画に手を伸ばすが、既読した内容は酷く退屈なので、すぐに放った。
 一昨日、金曜日、帰宅してから現在に至るまで、一体何をしていたのか。何もしていなかったようにも思える。それではこの倦怠感の正体は、一体何だというのか。
 突然、巨大な闇が、向後の闇が頭上にのしかかる。学校を辞めることなど考えられないが、もしかしたらと、そう思ってしまう。それよりも、今の趣味を将来続けていられるだろうか。いつか、自らの拙い技術を見限って、自己を表現することを止めるだろうか。それこそ考えたくもない事であったが、何分、有り得ない事ではなかった。
 思考の波に恐怖した僕は、部屋の明かりを消すと、布団に抱かれるように、身を包んだ。ずっとこうしていられたらいい。そう思った。
 もう明日は学校に行かない。


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