第80期 #34
地鳴りと爆発音で目が覚めた。爆音で真鍮の窓枠が震えていた。
空は青白い。夜明けのはずだ、そう思って外を見るとライチョウが空彼方に黒く飛んでいるのが見えた。くそったれ、そう低く呟き、ベット脇に立てかけたAKを掴み取って部屋の外に駆け出した。部屋出るとジュンコがほぼ同じタイミングで飛び出してきた。右手で合図を送るとジュンコは小さく頷き、玄関に向かって全力で走り出した。
外は火薬と生き物の焼ける匂いで充満していた。右手の地面に黒く焦げたバルカイの男がうつ伏せで倒れていて、背中から白い煙を出していた。辺りは泥とガソリンが混ざった液体でぬかるんで表面をぬらぬらとした膜が覆っていた。遠くの地平線で小さな爆発が連続し、オレンジの光が爆発音となって見えた。
「二体」
ジュンコは肩にかけた望遠レンズで光の方角を見て言った。
「村の外れの井戸にマゼル58が隠してある。ダツへ連絡をいれ応援を要請してくれ。俺はハイ爺のところへ行く」
ジュンコは「わかった」と言って着ていた分厚いジャケットを脱いだ。左腕に掘られた黄金の「UG」の文字が、昇り始めた朝日に反射し、綺羅と光った。
空の色が変わり始めていた。焼けるような赤は青を一瞬にして消滅させ、一面に燃え広がっていく。
目の前が白く激しく光ってたと思うとすぐ後ろの教会が爆音を立て崩壊し、その爆風で二人は前に吹き倒された。耳が感覚を一瞬失い音が遥か遠くに聞こえた。すぐさま回転して起き上がり、瓦礫の脇に身を隠した。ジュンコを探すと数メートル離れた大きなコンクリートの塊の影に隠れていた。こちらを見つけたジュンコが親指を立てるのが見えた。
「今日が最後の夜かしら」
昨日の夜、ガタルカナルの川辺で革のブーツの紐を結びながらジュンコは言った。星は無く、空気は蒸し暑かった。汗でじんわりと身体全体が湿っている。
「あんたの話、面白かったわ」
ジュンコは言った。頬に汗がにじみ、闇の中に輪郭がはっきりと見えた。
「何故アンジェラはあの時あんたの元を去ったのかって、ずっと考えてた」
「何故?」そう言ってジュンコを見た。
「あたしなら、間違いなくあんたを殺してる」
ジュンコはそう言って八重歯を見せて笑った。
空の端がまた震え、更に大きな爆発がすぐ後ろで起きた。それが合図だったかのようにジュンコは飛び出し、ものすごい速さで西へ向かって走り出した。
走るジュンコの黒髪が赤い朝日を反射し、金色に光るのが見えた。