第80期 #29
新年度最初の朝礼で、園長先生が「年長のお兄さんお姉さんは、帰りに新しい年少さんのお友達をバスまで連れて来てあげて下さい」と、司令台の上から園児の皆に向かって話した。年中の友哉はそれをよく覚えていた。特に、年上の人は新しく入った子をバスまで連れて行く、という事をしっかりと記憶していた。ただ友哉は年長や年少という言葉を知らなかった。自分の年中という言葉も知らなかった。それがまた友哉の頭の中で、お兄さんは新しく入った子をバスまで連れて行くんだ、と強調させる事となった。
新しい学年になりクラスが替わった。教室の場所が替わった。新しい先生になった。新しく友達になるだろう子達が、教室の中で走り回っていた。前に友哉が居た教室の方は新しく幼稚園に入ってきた子達の場所になった。帰りはバスに乗る前にあそこまで行って、小さな子の手を引いて、どのバスに乗るか訊いて、バスに乗せてあげなくちゃいけないんだと頭の中で想像した。
帰りの時間になった。友哉はできたばかりの友達に「新しい子達をバスの所まで連れて行くんだよね」と話した。友達は「僕達はいいんだよ」と云った。話は合わなかった。
皆はバスへ向かう中、友哉は新しく入った子達の教室へ向かった。同じようにそこへ向かう子達が居たが、どれも友哉より一つ上のお兄さんやお姉さん達だった。友哉は段々と先の友達が云った事と、皆が直接バスへ向かったのが正しかった事を理解した。
教室の前まで来た。止めてもうバスへ向かおうか考えた。男の子が一人居た。友哉は「バスに行く?」と訊いた。彼は「うん」と答えた。
友哉はその子と一緒にバス乗り場へ向かった。乗るバスを訊いた。手は引けなかった。友哉は一番年上でもない自分が、間違えて新しく入った子の手を引いて歩いているのを見られるのが嫌だった。
連れたその子はしっかりしていた。彼を無事バスへ送ると友哉はほっとしてさっさと自分のバスに乗り込んだ。
翌年、友哉は年長になった。今年も園長先生は「年長さんの皆は新しく入った年少さんをバスに連れて行ってあげて下さい」と話した。
帰りになるとクラスの皆は年少の子達を迎えに行った。去年既に連れて行った友哉は友達三人とつるんで迎えに行かなかった。
また翌年になった。友哉はもう幼稚園を卒園した。一昨年、友哉がバスへ連れて行った子が年長になった。彼は四人の友達を連れて新しく入った子達を迎えに行った。