第80期 #27

白いブランコの少女

 殺風景から殺風景へと、裏切りなく移りゆく景色の中にデジャヴにも似た、懐かしい記憶をくすぐる映像が僕の眼に飛び込んできた。公園……? 決して広くはないが、子供が駆け回るには十分だ。公園にはジャングルジムにシーソー、ブランコ、鉄棒があった……。ブランコに目を戻すと、かすかに揺れるブランコに、白いワンピースを着た少女が一人、存在感なさげに、しかし無人の公園にしっかりとした違和感を与えつつ座っていた。この炎天下に、長袖という選択ミスをしていたその少女に、僕は妙な親近感を覚えていた。真っ青な空の下で、一人佇むその少女の表情は、どこか切なく寂しげで『美しさ』とは違った形容し難い魅力を感じるには十分すぎる程だった。僕は、気がつけばその少女に見とれていた。肩に掛かるか、掛から無いかの黒い髪。ブランコの鎖を握る細く白い手。ほのかに桃色が彩られた白のスニーカー。揺れるブランコに合わせてわずかに上下している足首……。燦々と降り注ぐ灼熱の太陽の中で、幻想を思わせる少女に僕は――。
 気付けば、僕と少女の距離は三メートルほどになっていた。
「……」
 少女が僕を見ていた。
「あっ……」
 わずかな動揺が僕の意識を取り戻す。僕と少女は目が合ったままだ。耐え切れない沈黙に僕は思わず口を開く。
「となり、いい? ……ブランコ」
 僕は少女に、希望にも似た問いを投げかけた。
 少女は隣のブランコをちらりと見てから、視線を僕に戻して微笑んだ。
「どうぞ。公共のブランコですから」
 公共という言葉に少しだけ違和感を覚えながら、僕はブランコに腰掛ける。今日、初めて出会った僕と彼女。の、はずだった。彼女は一瞬だけうつむいて、すぐさま顔を上げて優しく微笑んだ。
「もう、帰らなきゃ……」
 気付けば辺りは暗くなり始めていた。
「そっか……」
 名残惜しく僕は下を向き、自分の手を見つめながら拳を開いたり閉じたりしていた。
「じゃあねっ!」
「あっ……」
 僕の言葉を待たずに、彼女は人通りの少なくなった大通りの向こうへと走っていった。彼女の後ろ姿が消える前に、僕はどうしても、確認しておきたいことがあった。
「……待ってくれ!!」
 彼女は離れた位置で止まり、くるりとこちらに振り返った。
「また…… また、会えるよね!?」
 それだけが聞きたかった。早く答えが聞きたかった。彼女の唇が動いた。
「会えるよ! きっと……」



Copyright © 2009 新田大輔 / 編集: 短編