第8期 #6
学年と組と名前だけ書いて、後は空欄のままの『進路志望調査』をぼんやり眺めながら、休み時間中私はペンをくるくる回している。不機嫌は伝染するもので、そのうちにペンは制御から外れスカートに当り床に落ちる。
拾おうと思ったその時、窓の向こうの異様な光景に気付く。日差しをさえぎるように黒い雲が急速に集結している。嫌な予感がする。やがて雷鳴が轟き、案の定担任のニシが駆け込んできて私に告げる。
「とりあえず、ミサキ君頼むよ」
教室の全員の視線が私に集中する。気を紛らわそうと思い、私はニシの趣味の悪いネクタイと奇妙な髪型を見つめる。そしてペンを拾い机の上に放り重い腰を上げる。
グラウンドに出てみると粗大な怪獣は既に到着している。湿気が辺りを包んでいる。急に黄土色の自動車大の足が振り下ろされる。たちまち地面は液状化する。否応無しに闘いに引きずり込まれる。立ち上った砂煙が顔にはりつくのも気にせずにとにかく駆ける。緩慢な奴は私を見失ったようだ。無意味な咆哮を繰り返す。再度足元に衝撃が走る。何とかかわし、さらに駆け続けて奴の後ろに回りこむ。ちょっとした道具を用いて私も巨大化する。着ている制服ははちきれることなく私の体に追随する。奴が気付いたようだ。上半身を大きくひねりこちらをにらむ。奴の背中は一瞬しか見ることができなかったが、今回もファスナーが付いていたような気がする。
戦闘は短時間のうちに終了した。私の闘獣一本背負いが決まったのだった。
グラウンドに横たわっている奴をまたがないよう気をつける。泥が髪の毛にくっつき固まっていたので軽く手で払う。ニシが近寄って来る。二人で教室まで戻る。
「ミサキ君、進路はどうするね」
ニシの問いかけがうるさく感じられたので、私は投げやりに答える。
「このまま闘獣師を続けるのもいいかも、と」
「とりあえず、それもいいんじゃん?」
言い終えるとニシは笑い出す。目に怒りを込め私はニシを見下ろす。そこに突然の烈風。ニシの頭髪が乱れネクタイと絡まり合う。怪奇なそれを一瞥してなおも歩き続けると、思わず校舎を踏みつぶしそうになる。建物が騒然となりニシは何かを叫んでいる。元の大きさに戻ってから教室に来い、おそらくそんなことだろう。
見上げると、黒雲は去り青空がどこまでも広がっている。私の現在についてちょっと考えた後、最近ドキドキしてまへんなあ、とテレビ芸人のように一人ごちてみる。