第8期 #11
パーティーは中盤だ。
工藤は前日の徹夜でいつもより早く酔いがまわり、空いたソファを捜して腰を落ち着ける。緑色のドレスを着た女が、工藤の坐る二人掛けのソファに向かって歩いてきた。
「お隣はよろしいかしら」
「どうぞ」
女は屈み、工藤に軽くくちづけをしてから左に坐る。目を閉じる暇は無く、「浅黒い肌」と記憶された。遠くからは緑色にしか見えないドレスは、よく見るとただの緑ではなく、五色の光を放っていた。工藤は光の謎を解きたく思ったが、女に密着した生地のみに触れることは不可能のようだった。ウェイターを呼ぶ。盆も見ずにグラスを二つ選び、片方を女に渡す。
「ねえ、席を交換しませんか?」
工藤は黙って立ちあがり、さっきまで女がいた位置に座った。
「当りでしょう?」
女が脚を組む。深いスリットに女の脚が剥き出しになる。工藤は笑った。
「あら、違いまして?」
「さあ、どうでしょうか」
女がグラスを持ち上げた。工藤は、いまさら、と思い苦笑しながら乾杯につき合う。女は工藤のいい暇つぶしになった。つまらない世間話などどうでもよく、ドレスがてらてらと光るのを見ているだけでおもしろい。
パーティーは終盤だ。
何かを誤魔化す香が焚かれ、会場にいるものの体温は上がる。すべてのソファは人でうまっている。愛の懐の広さに驚く。勢い余ってソファから落ち、床で行為を続ける男女がいる。酒を浴びながら声を荒げるものもいる。パーティー後半から給仕はウェイターからウェイトレスに替わった。あまったるい空気の中、目の前にいる裸の女よりも無表情で酒とオードブルを運ぶ女に惹かれ、給仕服を裂き始めた男がいる。主催者の趣味の悪さに、工藤の笑みがこぼれる。
緑衣の女はソファでふざけて、ドレスが乱れても気にしない。工藤の肩に手をかけ、何度もキスをねだる。酔いながらもそれ以上のことは求めない。おしゃべりしながら、くすくす笑いながら。徹夜明けの工藤にとっては色々と都合が良い。すでにカクテルからソフトドリンクに移行した工藤は、適当に相槌を打ちながら女の要求のために軽く瞼を閉じる。左手にグラスを持ち、右手でウェイターを呼ぶ。
無作為に選ばれるパーティーの主催者は席上でのセックスが禁止されている。それがこのパーティーのルールだ。全てを知りながら近づいてきた女に興味を持たないはずはないが、今、工藤が重ねるのはグラスと唇だけ。玉虫色のドレスの謎は解けない。