第8期 #10
あたしはうさぎ。
バニーガール? ウケ狙い? なんてほざく男もいる。みんなまとめて死ね。あたしって寂しすぎると死ぬなんて噂されてるけど、こんな馬鹿と寝るくらいなら、舌でも噛み切ってひとりで昇天してやる。馬鹿は嫌い。大きければいいと思ってる馬は単細胞だし、十二支じゃない鹿なんて論外よ。
長く鋭く進化した福耳、徹マンで得た跳ねマン級の脚と赤玉の瞳、ミルク色でシルクの手触りの毛並み。あたしのからだは男を魅了する。男を手玉にとることこそ、あたしの処世術。快楽と金のなる木は男と知れってね。一途な女? 良妻賢母? 男やガキの従属物じゃない。ただの負け犬よ。キャリアウーマン? 男を虜にできない哀れな仔羊ね。犬も羊も十二支だけど、同類にされたくない。
あたしの優越感は、絶対に揺るがない。
ある日、ママがぽつりと告げたの。
「実はね…あなたのパパ、本当のパパじゃないの」
衝撃的だった。誤解しないで。嬉しかったのよ。あんなクズの胤じゃないってわかったんだから。
そんなことよりも、ママのことが心配になった。月を見上げた。姦通防止法にひっかかった連中の流刑地。あのクズも送還されてる。懲役の餅つき、あと何万回つけば帰って来れるんだろう。来なくていいけど。あたしの出生の秘密が当局に知れたら、ママも月への片道切符だろうな。きっちり避妊してしっかり否認すれば、あんな古臭い悪法、いくらでも切り抜けられるのに。
生まれてすいません。
って、なんであたしが謝んなきゃなんないのよ。男に主導権を握らせるから、こういうことになるのよ。
「月に代わってお仕置きよ!」
あたしはママの左頬を打った。でもママは、右頬は差し出さなかった。
「ひょっとして、ママの不貞を疑ってるの? 娘にそんなふうに見られるなんて…」
泣き崩れるママの姿に、あたしはさすがに恥じた。
「ごめんなさい、ママ」
「ありえないわよ。ママは処女なのよ。パパとだって寝たことないの」
おかしなことを言い始めた。
「…つまり、ママも本当のママじゃないってこと?」
「違うわよ。あなたは正真正銘、私の娘よ」
言ってることが支離滅裂だ。
「…じゃあ、あたしの本当のパパって?」
「天国にいるわ」
あたしは狂喜した。
あたしの本当のパパは神様だった。あたしは処女受胎で生まれたんだ。
あたしが男を求める理由もわかった。無意識のうちに本当のパパに会いたくて、何度も昇天したくなるんだ。