第79期 #36
窓枠に腰かけて日を浴びる。
麗らかな春の日の午後。
ゆっくりと背を伸ばした。
お気に入りのだけど未だに名前を覚えちゃいない紅茶を一口含む。
うん。いい味してる。
ぶらぶらと足を揺らして風を感じて居ると、髪がなびいて進行方向を教えてくれた。
「やぁ!プリマヴェーラ。今日も暇してるのかい?」
下を見ると銀色の髪をしたインヴェルノがこっちを見上げながらパンをほおばっている。
彼、確か昨日は食べるものもないって言ってわたしの家で食べていったのに。
「どーも。でもあたし、別段暇してるわけじゃないの。」
「お茶で忙しいのかい?」
陽気に笑ってカップを揺らす。
立ち上った湯気はくるりと円を描いて空に溶けた。
「そうよ。あたしは彼との午後が一番楽しみなの」
傍らの紅茶の缶をインヴェルノに放り投げた。
赤と金色の綺麗な紅茶缶。
彫ってある名前は一体何だったか、未だに覚えちゃいられないけど。
くるくると二、三回缶は空中で回転して、
スコーンと小気味いい音を立てて上を向いていたインヴェルノの顎のあたりにクリティカルヒット。
あーあ。そういえばあたしはノーコンで、インヴェルノは運動はからきしだった。
「ヴェラオンと、それからオウトーノを誘ったら?きっとあの子たちも気に入るわ!」
そう、皮肉っぽく言ってあげるとインヴェルノはムッとして頭をかいた。
インヴェルノは少々引っ込み思案の気がある。
こうして気軽に話しかけてくるのは私ぐらいしかいないのだ。
しっしっと足で促すとようやくインヴェルノは歩きだした。
見上げた太陽はヴェオランみたいな金色をしていたし、
庭に咲いているチューリップの赤はオウトーノの目の色だ。
今日、きっとインヴェルノはあの子たちをお茶に誘って、そして大の仲良しになれる。
すべての春がそう言ってる。
銀の色をした風が楽しそうに駆けて行った。
麗らかな春の午後。
お気に入りの名前を覚えていない紅茶を窓枠に腰かけながら楽しむ。
遠くから楽しげな声が聞こえてきた。