第79期 #35

野球篇

 九回裏二死満塁三点差ピッチャー桜井彰一郎右投げ速球型バッター小柳満左打ち四番、右投げと左打ちどっちが有利なんだかしらないしってる人はしってる人で勝手に意味を見いだすといい、そして肝心のことを言いわすれてた今は甲子園大会決勝でつまりこの試合に勝ったほうが優勝で負けたほうが準優勝。桜井おおきくふりかぶってどうこうあれこれのモーションののち足元の土がえぐれて小さなつぶがまいあがったりして最終的になげた、ケンセーキューぐらいのことはしってるからしてその話をしてもいいがメンドーなのでやらない、ふつうに投げただからバッター方面によくある運動法則にのっとって。
 今度は小柳のがわから見てみようするとなんか前の人が動いたかと思ったら白くて丸いのがとんできたとゆうぐあいになる、わりあい速くてびっくりしているのだけれどそんなことはおくびにもださないぎゅっと両手に力をこめる、いまさらだけれど現在フルカウント、実のとこ小柳はなっからストレートに的をしぼっていたわけでもう心がたかぶってうれしくてたまらなくてほとんど勝利を確信してこのよろこびを人に伝えたいと思いました手近な人に話しかけました。ここで登場キャッチャー二階堂まのぬけた声をだすだいたいそんなものだ、ああそうですねそいつはよかったっすねははは、それをきいて小柳にかりとわらう二階堂その笑顔にどきりとする、恋がはじまった――。
 まちがえた言葉でやってるとどうも調子がくるう、現実ピッチャー投げてキャッチャーとったの時間とゆうのはめたくそにみじかいしゅっでぱっといった感じだからこんなやりとりをするヒマなんてない、故によって二人の恋ははじまることなくとゆうことでめばえかけたときめきはいったんリセットするにしてそうなってくると二人はもうただの二人であの情熱は二度ともどってはこないのだなんと! そうゆうののつみかさねが戦争なんよとかなんとかその方向で書こうと思っていたらあきたもうしらない終わりだ終わり、そもそもあんまし野球くわしくねーしドカベンよんだくらいだしいやいやあれは偉大な作品だがそれだけでいけると思ったら大間違いだしってたよでもやってみた、もはやぐんぐん小説らしさがさがってきてとりかえしのつかない状況においこまれているみたいで、なにがまずかったかといえば作者がでてきちゃいけないいくらてれくさくたってちゃちゃを入れちゃあダメだ。



Copyright © 2009 清水ひかり / 編集: 短編