第79期 #17
石川の手に汗がにじむ。
まさに“天運”とはこのような事を言うのだろう。
大逆転への道が、石川にははっきりと見えていた。
赤、黄、茶色、色とりどりの球の中に一際輝く的玉。
今回のワンオンルールでは、石川がそれに持ち玉を当てた瞬間、彼の逆転勝ちが決定する。
石川は、まだ余裕の笑みを見せる対戦相手の宇加谷を無視して、ボールの動きをゆっくりとシミュレートする。
「いける」
確信を持って小さく呟いた。
インパクトは持ち玉の真芯を捉えた。赤銅色の持ち玉は、球と球の間隙を縫うようにして青い的玉へと一直線に突き進んだ。
最早、この勝利を遮るものは何も無い、と石川が確信した瞬間、的玉から飛び出した何かが赤銅色の軌道を曲げた。
「いかさまだ!」
石川は思わず声を上げて審判に顔を向けた。
だが、主審も副審も首を横に振り、石川の抗議を認めようとはしなかった。
〜所変わって〜
ニュースキャスター「各国の英知の粋を極めた対赤色彗星ミサイルは、見事に彗星の軌道を変えることに成功しました!
地球の危機は去ったのです!
まさに、今この時の為に我ら人類が神によって地球にもたらされたと言っても過言ではないでしょう!」