第78期 #8
友人が言うには、銀行強盗を題材にした小説が面白いのは、そいつが否リアルであり、なおかつ臨場感があるかららしい。強盗達は、否リアルの中で綿密に策略を練り、見事に仕事を成し遂げ、それが読者に感嘆をもたらすのだと。しかし、その裏には幾つもの幸運があり、それを隠すことが、世間受けする作品に昇華させるのであると。臨場感なんて結局は作り上げられたものであり、それをリアルだなんだというのは馬鹿馬鹿しい話で、つまりはエンターテイメントでしかないらしい。また、今の時代銀行強盗対策というものはとても高等であり、そこを掻い潜る術など皆無の筈だし、もし銀行強盗にばたりと立ち会ったとしても銀行員と警察に任せておけば犯人は捕まる。それこそ、いつまで経っても流行り続けているなんたら詐欺とやらをした方が効率よくお金が稼げるのだから、銀行強盗を実行しようなんて考える奴は馬鹿以外の何者でもない、との事だ。しかし、私にはいまいち納得できず、第一私はそんな小説は読んだ事もなかった訳で、それにそんな事は強盗小説以外にも当て填るのではないかと思ったし、さらには途中から関係のない話になっていたような気もした。なのでその話をされてすぐに、その旨をそのまま友人に伝えた所、いつからお前はそんな奴になったのだ。私の言いたかった事は銀行強盗をする奴は馬鹿だという部分で、そこ以外の言動はただの肉付けであり、話をエンターテイメントとするための妄言であって、そこに文句をつけるのは論外だ。牛丼屋で、なぜカレーを売っていないのだと店員を怒鳴る五十過ぎの親爺並に性質が悪い事だ。お前はそんなくだらない人間だったのか、甚だ遺憾だと、そんな風な事を十分少々説教されたのであった。そして友人は、先程まで私に暴言を浴びせていたのを忘れたかのように笑顔になり、こんな事を言いながら俺が強盗を行い、あっさりお縄くらったりしたらそれこそそこらのつまらない小説を優に超えるストーリーの出来上がりだな、と言った。そんなオチならどんなに良かった事かと、現在の私は考えているのである。今、私の隣には、銀行強盗に銃で撃たれ、うつぶせになり気持ちよさそうに眠っている友人がいるのだ。