第78期 #7

発掘の日

 すぐに来てくれと教授から連絡を受けた私は、とるものもとりあえず発掘現場へとやってきた。
「何か見つかったのですか」
「見つかるもなにもキミ、あれを見てくれ」
 教授の指差す先には、学芸員の集まりの隙間から四角い突起物が見え隠れしている。
「ラメゾンドだ」
 手にした古文書をめくりながら、教授は顔を上気させている。
「ここに書かれてあるのは、お伽噺なんかじゃなかった。過去には我々とは別の文明が、この世界を支配していたんだ」
 教授が解読したところによるとラメゾンドとは古代人の集合住居なのだそうだ。
「大きさは、どのくらいになるのですか」
「超音波センサーによると、見えている部分の二、三十倍はあるようだ」
 徐々に自分の心音が高鳴っていくのを感じる。これは前代未聞有史開闢以来の歴史的大発見じゃないか。
「センセー、こっちに来てくだせー」
 となりに開けられた穴奥深くから声がする。
「モ、モービルがでましたっ」
 教授とともに穴底まで降りると、そこには妙に角張った物体があった。その大きさ、形状からすると、これまで私たちがさんざん議論を重ねてきたモービルそのものに間違いない。表面にはかすかに古代文字が読み取れる。
「これは――ダ、ツ、ンと読むのですかね教授」
「発音はそうだろう。意味はまるでわからんが」
 文字の上を指先で叩くと、コツンコツン金属音が響き渡る。材質は鉄だろうか、いずれにせよ人工物であることは明白だ。下部を覗き込んでいた教授が叫び声を上げる。
「おいこれを見ろ。車軸がついてるぞ。四輪だ。こいつは圧縮空気の浮遊ではなく、タイヤで走っていたんだ」

 その後も発掘現場は、数々の発見でおおいに沸きあがった。

 一段落ついたところで、我々は遺跡全体を見渡せる丘へあがり腰を下ろす。
「あの、教授」
「なんだね」
「彼らが文明を築いていた頃、私たちの祖先もこの地球上に存在していたんですよね」
「無論そうだとも」
「ご先祖様は、古代人にとってどういう存在だったのでしょう」
「ああ」激しく手をうごかし教授は古文書をめくる。
「我々の祖先はナマケモノとよばれ、森林奥深くの木上で暮らしていたらしい」
「ナマケモノ……それはどういう意味ですか」
「直訳するとハタラカざる人、という意味かな」
 ハタラク……脳をフル回転させても対応する適切な言葉を見つけられず、私は口を噤む。陽はすでに大きく西へ傾き、遺跡を眺める教授の笑顔を赤く染め抜いている。



Copyright © 2009 さいたま わたる / 編集: 短編