第78期 #6

あるアパートの一室

あるアパートの話である。木造でいかにも古いアパートだった。それでも割と頑丈で、駅にも近く、家賃も安いため、いつもほぼ満室状態だった。ところが、いつも開いている部屋がある。他の部屋は絶えずうまるのに、その部屋だけ借り手がつかない。大家さんも、不動産も不思議がっていた。借り手が決まりそうになっても、みんな突然、大した理由もなしに辞退するのだ。
そんな状態だから、いつしか噂がたっていた。昔、人が自殺したんじゃないか。一家心中か。夜逃げか。人を激しく恨んだまま亡くなった霊か。噂ばかりが騒ぎ立つ。
大家さんもたびたび、住人から噂の真相を尋ねられるが、全て嘘と否定した。実際、そんな物騒なことは起こっていないのである。
この部屋の横に、思春期になる女の子が住んでいた。この女の子が思春期に入ってから、奇妙なことが起こり始めた。そう、ポルターガイストである。
人がいないはずなのに、この部屋から足音が聞こえ、壁を叩く音が聞こえた。住人たちはますます、この部屋を不気味がった。悪霊が住んでいる。妖怪が住んでいる。などなど
しまいには、よそへ引っ越して行く者も現れる始末。大家さんは困った。そこで大家さんは、自分でまず、この部屋を調査してみることにした。
入ってみると、大家さんは戦慄した。確かに、壁には叩いたかのような跡があり、床には無数の足跡が残っていたのである。大家さんはパニックになってしまった。自ら「あの部屋には悪霊が住み着いている」と喚き始めたのである。大家さんはその後、パッタリ来なくなった。
住人たちは怖くてしょうがない。何人かが、この部屋に入ってみたら、本当に無数の足跡がある。大家さんの言っていたことは本当だ。大家さんはもう、アパートの所有権を他に譲る気ではないか、という噂までが広がった。住民たちで協力して、霊媒師を呼ぼう、という意見がでた。賛同者も多かったので、霊媒師にお払いをしてもらった。
ところが、お払いの効果がない。当然だ。ポルターガイストの原因は、思春期の子なんだから。よく分からない住人たちは不安がった。霊媒師でもダメ、じゃあどうすれば?
ポルターガイストは相変わらず続く。少しずつ、住人たちはアパートを離れ始めた。
今では無人である。



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