第78期 #4

どちらかはトム?

「なあ、ここだけすごい日当たりがいいんだ。そこのカーテンを閉めてくれないか?」
「お安い御用だトム、あるいはジェリー」
「僕はトムだよ。あとカーテン、ありがとう」
「もう一度言おう、お安い御用だったよ。安すぎるぐらいだ。あとね、世の中には結果として分かっていたとしても、抗わずにはいられない存在って奴があるもんなのさ」
「ははん、それがトム&ジェリーってわけか。やれやれだね。とんだ迷惑だ」
「いや、正確に言えば迷惑はまだかけちゃいないぜ。これからかける予定なんだよ。なあトム、話が変わるがこれからピクニックに行かないか」
「勘弁してくれよ。今日という日は日曜日で、僕らが今いる場所は家なんだぜ、しかもここは僕の家だ。ピクニックに必要となってくるあれやこれは、当然僕が持ち出すことになるじゃないか。なあ、君だって先週までは働きづめだったんだろう? なんで久しぶりの休日をそんな風にして過ごしたがるんだよ」
「君の言い分も分からないわけじゃない。男二人でピクニックするのに必要な荷物は、きっと女二人でするピクニックより荷物はすくなくなることだろうさ。でも、たとえ男二人のピクニックであっても、やるからには少なくない量の荷物が必要となる。それは間違いないことだろうね」
「おいおい、それだけ分かっているっていうのになんでやろうとするんだよ? 君はもしかして僕の知らない間に、筋の通ってないことを平気で出来るような感情的な奴になっちまったのか?」
「いいや、これは感情的なことと関係ないことだ。うららかな春の休日には僕らはピクニックをしなきゃならんのだよ。これは感情を挟む余地もない、宿命的なものさ」
「へえ、知らなかった。宿命的なものね……おい、いったいいつ、誰が、決めたんだ?」
「おいおい、トマールイ・ハジェリー、君って奴はテレビもろくに見ないのか。ディッシュ大統領がこの前の演説のときに言ってたじゃないか。いくら一月から四月まで、一度も休みが取れなかったからってテレビぐらいは見ているもんさ。大丈夫かよ、ハジェリー。君、文明ってやつに追いつけてないんじゃないか」
「言われてみるとそうかもしれないな。僕だって君に負けず劣らず、ここ八ヶ月、休みなく働いていたんだもんな。そりゃすこしぐらいは疲れてるもんだよ。そういえばディッシュがそんなこと言ってたっけ。しょうがないな、行くとするか、トム」



Copyright © 2009 加瀬 緑 / 編集: 短編