第78期 #24
時間が遅刻しそうになったので、焦った私はカモシカのように颯爽と坂道を駆け上がる姿はゴジラのように圧巻だった。
たなびくセミロングの黒髪の髪飾りのポケモンの黄色の色がきらりと鈍く光り輝きを少し増した。と同時にグキッとローファーの千鳥足が行く手を奪われ、膝からなめらかなアスファルトへなめらかに崩れ落ちた。
膝の痛みが有頂天に達し、私は大声で悲鳴を呻いた。
「痛ったあい」
恐々と、カモシカのような膝に視線を移すと、ゴジラのような血が僅かに夥しく流れていた。
通りがかった男子が驚いてびっくりし、手ぐすねを引いて「きみ大丈夫かい」と助言してくれた。
花子は嬉しさのあまり微笑み返した。不覚にも微笑み返してしまった花子は恋の予感を感じたのだった。花子は微笑んでしまった自分がおかしくて、つい微笑んでしまった。
結局、私は遅刻とかする破目になってしまい、職員室とかに呼ばれる窮地に陥った。
「高橋先生って怖いのよね、でもいかないと怖いから、いくのは怖いわ」
私は困惑した表情をチョイスし。廊下を早足でトボトボと彷徨っていると、今朝の男子が「付いていってやるよ」と言ったてくれた。私は天にも昇る気分で穴があったら入りたいほど恥ずかしかった。
そのとき私の瞳には天国が見えた気がした。ちらっとだけ見えた。否、確かに見えたと思う。あれは幻聴なんかじゃない。
どっしりとした職員室の扉がふたりの行く手を阻む。意を決した彼は強く扉を引いた。すると意外にもスルスルと重厚な響きを従えオープンした。
めざすは高橋先生のデスク。
彼は颯爽とカモシカのような足取りで力強く前進するさまは、まさにゴジラのように軽やかだ。
そして私の代わりに助言してくれた。
「高橋先生。花子さんが遅刻したのは、僕は看病していただけで無実です」
高橋先生はやぶさかでない嗚咽をもらした。
「あんたたちを見ていると、頭痛が俄かに手痛い打撃を被るわ」
――青年は赤く充血した目をこすりながら、パソコンの前で大きく息をついた。
「八日に間に合うかどうか不安だったけど、なんとか仕上がった」
隣でテレビを見ていた妹がディスプレーを覗き込み眉間に皺を寄せた。
「どうだ、素晴らしい短編だろう」
青年が訊ねると、妹はなにも言わず逃げるように自室へ引きあげた。
「そうか、言葉も出ないほど凄いか。これで78期は俺で決まりだな」
青年はエンターを押しながらニコリと微笑んだ。