第78期 #23

お母さん、僕はここにいるよ

お母さん、僕はここにいるよ

 東京の下町に4人の家族がいました。長男の10歳のノボルは小学校4年生。次男のアキラは、5歳でした。
 ある日、母は、ノボルの夏休みに兄の実家に行くことにしました。東京から列車に乗って、3時間ほどの所です。
 三日後、4人は目的の駅に到着し、20分歩いて兄の家に着きました。
 母の兄の3人の子供が外で、カエル捕まえて遊ぼうとノボルに言いました。カエル?ノボルは目を輝かせました。僕も連れてってよと、アキラが慌てて付いてゆきます。
 30分して子供4人が慌てて家に帰ってきました。
「アキラがいなくなっちゃった」
 両親、母の兄の家族も慌ててアキラの捜索に飛び出しました。
 20分位探していると、遠くの信号機の無い線路に、後ろ向きの子供の姿が見えました。
 母は半信半疑でアキラと叫びましたが、遠すぎて聞こえません。
すると、不運なことに3〜4時間に1本しか走って来ない列車が走ってきました。
アキラは足元の小石がぐらぐら揺れて異変に気づき、左を見ると駅から駅員さんが走ってきます。右を見ると列車が近づいてきます。振り返ると母の顔が見えました。「お母さん、僕はここにいるよ」アキラは怖くて動けませんでした。
列車の急ブレーキ音がしました。その瞬間、皆、目を覆ってしまいました。
 それから、アキラが目を開けて立ち上がると、誰もいません。「僕は、ここだよ」アキラは叫びました。何度も叫んでも誰も来ません。泣き出して疲れてその場で眠ってしまいました。
 そして、何度も泣いて眠っては起き、母を呼びました。
 知らない内に、踏み切りに遮断機ができています。車も通るようになりました。駅の周りには畑しかなかったのに家も建っていました。アキラは不思議に思いました。踏み切りを歩く人も増えました。でも、誰れもアキラが呼んでも黙っています。
 ある時、遠くに光の玉が見えました。その光はどんどん大きくなり、母の体から放たれていることがわかりました。
「母さん、僕はここだよ」と言うと、母は、
「待たせたわね、アキラ」と言って母はアキラを抱きました。するとアキラの体も光に包まれました。
「僕どうなったの」
「お前は30年前に列車に轢かれて死んだんだよ」
「じゃ、母さんは?」
「私も死んだんだ。だから迎えに来たんだよ、これからは、いつも一緒だよ」
すると、二人の光り輝いた体は小さな光の玉になって消えていきました。



Copyright © 2009 中村 明 / 編集: 短編