第78期 #17
芋虫は考えた。
「今すぐ蝶の姿へ、とはいかないものか」
常日頃から生き急ぐ性分のこの芋虫にとって、繭の中にて数日間じっとしていることは我慢のならないことだったのである。
そこで、自らの口から分泌する粘糸を以て、背中に落ち葉を二枚張りつけ羽根に見立てるも、その不格好は同じ木に住むカブトムシ達からの嘲笑の的にしかならなかった。
もしここで心に一本筋が通っているものならば、「今に見ていろ」と周りを見返す努力をするのだが、あいにくこの芋虫の心は、自らの身体同様ぐにゃりぐにゃりとしていたので「ひとに笑われるくらいなら」と、あっさりとあきらめてしまうのであった。
急ぐことを諦めた芋虫は普通の芋虫になり、他の者がするのと同じように、自らの体を粘糸で包み、窮屈な繭の中で蝶へ変わる日をおとなしく待った。
数日後、繭から孵った芋虫は驚愕した。
蛾だった。
自分が変態したのは、街灯にたかり鱗粉をまき散らす蛾だったのだ。
悔しく思った蛾は、近くの花畑へと飛んで行き蝶の群れに交じることにした。
しかし、そこでも蛾は蝶たちに笑われた。
「ひとに笑われるくらいなら」
蛾は、ゆらりゆらりと夕陽色の街灯へと引き寄せられていった。