第78期 #16

冬の思い出

 冬は嫌いだ。どんなにぬくぬくと暖かな車の中にいても、寒々しい窓の外を眺めると、雪の降る公園で低体温症になりかけながら必死に耐えていた夜のことを思い出す。
 河川敷の公園に寒々とした冬の夜の光景が広がっていた。7,8人の高校生が走り回って騒いでいる。赤や白のカラフルなダウンを着て、中には髪を染めていたりキャップをかぶっている奴もいる。何を言っているのかわかりにくいが、哄笑だけが一番大きく聞こえる。少年たちは外灯に照らされて、浮かびあがっては闇の中に少し沈む。
 泥に汚れた一人がうずくまっていていま立とうとしている。その前にひょろ高い奴がじっと立っていて、残りの4,5人はそのまわりで騒いでいた。制服を着た少女が一人、その輪の外に立って甲高い声で何か叫んでいる。制服の上に暖かそうな白い上着を着ているが短いスカートから出た足は寒そうだ。ここからじゃよく聞こえないがおそらくこんなことを言っている。
「イヤー二人とももうやめて、どうしてこんなことをする必要があるのよ!」
一方のっぽ
「これは、俺達二人の問題なんだ。止めないでくれ」
「だめよ!二人ともけがしてるじゃない」
一方汚い男
「……男には戦わないといけない時があるんだ」
汚男が立ち上がったところにのっぽがドロップキックを仕掛ける。ジャストミートはしなかったが、かろうじて右側によけた汚男はよろめいて、見えないリングの円を出かけて蹴り戻される。そこを狙ったのっぽのフックが汚男の顔面にジャストミートする。さらに後ろから羽交い絞めにされなんぱつか殴られる。
「ヤめて−ヨッ君も、右手けがしてるじゃない!」
見ると確かに、殴った方の手の甲から血が出ているようだ。風呂に入るとしみるだろう。
「どっちかが負けを認めるまでやめるわけにはいかないんだよ」
さっきからずっと、リング役の少年たちは、面白くて仕方がないという風に笑っている。その声が聞こえる。
「負け、、負け、、負けるわけにはいかない…」
と汚男、這いつくばったままで言う。腹を何度もインステップキックされ、砂をつかんで投げつけるとさらにキックが激しくなる。
女はもはや言葉にならない泣き声を出すばかりである。
ハハハアハハハハハハハハハハ
胸糞悪くなって俺は煙草を揉み消し、ライトを消してギアをドライブに入れ、川に向って突進する。
まるで自殺だ。


全部終わると、女だけが残っていて、ものすごい形相で俺のことをにらんだ。



Copyright © 2009 藤舟 / 編集: 短編