第78期 #13

ウナギとカメ

 昔々、華やかなりし太陽王ルイ14世の時代。ガスコーニュ地方の外れにリクガメとウナギがいました。ガスコーニュは勇者を多く生んだ土地です。そのためかリクガメもウナギもとても勇敢で、いつも国王と祖国フランスのために戦いたいと思っていました。

 ある日、領主のカステルモール伯爵がマラソン大会を開催しました。
「この大会で優勝した者は、わしが銃士隊に推薦してやろう」
 銃士になることは若者たちの憧れだったので、たくさんの若者が参加しました。もちろんリクガメとウナギも駆けつけました。
 大会が始まりました。リクガメはのろのろと歩を進め、ウナギは桶から滑り出てウネウネと身をくねらせ、栄光のゴールを目指しました。

 三日経ちました。若者たちはみんな大会当日にゴールしましたが、伯爵は完走した全員と握手したかったのでまだ待っていました。若者たちも待っていました。
 丘の上にリクガメの姿が見えました。すると若者たちは応援歌を歌い始めました。リクガメはその歌に勇気づけられ、力を振り絞りました。
 歌が二百回目に突入し高らかなしゃがれ声が鳴り響く中、リクガメはゴールラインにたどり着きました。あたりは歓喜の声で溢れ、伯爵は若者たちに言いました。
「君たちの姿を見て大切な言葉を思い出した。『ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために』銃士隊の合い言葉だよ。銃士に推薦できるのは一人だけだが、君たちの心は立派な銃士だ」
 若者たちは感動し、互いに抱き合いました。彼らはリクガメを胴上げしようとしたのですが、リクガメはでかいし重いので諦めました。
「伯爵!」
 輪の中から一位だった青年が出てきました。
「俺の代わりにリクガメを推薦してください」
「そうだ、それがいい!」
 若者たちから賞賛の声が上がり、伯爵もにっこりと頷きました。リクガメは喜びと疲労で身を震わせていました。

 翌日、パリへ発ったリクガメを三時間かけて見送った後、伯爵はウナギのことを思い出してルートをたどってみました。するとスタートライン付近でウナギがひからびていました。国王に仕える一心で命も投げ出したウナギの勇敢さに感動し、伯爵は大聖堂を建てました。ウナギはガスコーニュの英雄伝説に新たなページを刻んだのです。

 さて、鶴は千年亀は万年と申しますが、リクガメがパリに到着した時、すでにフランス革命が勃発し、ルイ16世は処刑されて王朝は崩壊。銃士隊も解散していました。



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