第78期 #10

1番ショートコウタ背番号6

 いつもより原色が多い食卓のまんなかには大きなケーキがどっかりと座っていて、お母さんが左右対称にロウソクを立てていった。3歳下の妹のトモコは手前のロウソクから火を点けていって、奥のロウソクに点火する時に服に火が燃え移ってしまうんじゃないかとお母さんをハラハラさせる。お父さんが歌の最後をハモろうとして調子外れになっちゃって、僕は笑って1回じゃロウソクの火を消す事が出来なくて、トモコと一緒に残ったゆらめきを吹き消した。

 生まれた日と併せて13回目の今日。神様の声を聴くのはこれで3回目。

 人は年齢が4の倍数になった誕生日に神様からクイズが出されて、その答えを間違えると体重が倍になってしまう。逆に正解すると体重は半分になる。リトルリーグの監督が変わるのは体重じゃなくて引力だ、と言っていたけど僕にはよく分からなくて、どうしてそうなるのかは監督にも分かっていないようだった。

「コウタ君誕生日おめでとうグラヴィティゴッド佐藤ことGG佐藤です」

 頭の中で声が響いた。僕は横になって(立ったままクイズを間違えて首の骨を折っちゃった人もいるらしい)、もしコウタが軽くなったら1番でスタメンだな、と監督が言っていたのを思い出す。明後日から6年生最後の大会が始まるから、今日重くなる訳にはいかない。

「では問題。6−4−3のダブルプレー。6はショートである。マルかバツか」

 ……なんて運がいいんだろう。だって僕はその背番号を付けたくて4年生の時からガンバってきたんだから。野球の神様に感謝したくなる。って神様と話しているんだった。僕はマル、と叫んで頭の中で大きく円を描いた。
 
 みんな心配そうに僕を見ていたけど、僕は絶対に正解だと思っていたからちっとも不安じゃなかった。1番、ショート、コウタ、背番号6。思わず顔がにやけてしまう。体の芯からじわり、とあたたかいものが湧き出てきて全身をくすぐって、僕は悶えてゴロゴロと転がりながら答えを聞いた。
 
「――正解」

 その瞬間、ふ、と体が軽くなった。

 コウタは起き上がると両の拳を上げて喜びを爆発させた。トモコはコウタに抱きついて、隣で万歳、万歳、と両手を上げて飛び跳ねた。トモコと一緒になって万歳、とジャンプしたコウタは勢い余って天井を突き破った。天井に足が生えて数回振り子の動きを繰り返した後、足は動かなくなった。コウタは12回目の誕生日に死んだ。チームは1回戦で負けた。



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