第77期 #6
雲という鳥籠に抑えられながらも、わずかな隙間から零れた陽射しを、僕はキレイだと感じた。
だけど、これを友達に言ったら、びみょうな顔をされた。
「そんなに、すごいか?」
僕は無意味に長く説明したのが問題だったのか。それとも、まるで何々だ、まるで何々だと比喩を使いすぎたのが原因だったのか。
ともかく、彼にはあのキレイを理解してもらえなかった。
美しさは、いつだって共感されるものじゃない。
アリが一列になって巣に帰る姿を、僕はきらいじゃない。
みんながいっしょに一生懸命になってるからだろうか。それとも、こんなに大勢いても帰る場所は一つだというのがよかったのか。
これをうまく言語化するのは僕には出来ない。小説家みたいな言い回しが出来れば、もしかしたら、誰かと僕も、美しさを共感出来るのだろうか。
だけど、僕には今はそれがなく、何度僕が美しい、キレイ、かっこいい、すばらしい、などと言っても、誰にも共感されない。
雲一つない冬の空よりも、僕は雲がいっぱいある夏の空が好きだ。
様々な形をした雲を見られるからか、青空の中を自由自在に姿を変えて自由奔放に動き回す雲に、自由を見つけたのか。
これもまた僕は、うまく言葉に出来ないけど、好きだったんだ。これも、僕があまりに大げさだったのか。苦笑いされて終わったけど。
家に帰る道の途中で、僕はとあるサラリーマンのおじさんを見掛けた。
頭は失礼だけどハゲていた。後ろの方が少し残っているだけで、後はほとんど死んでいた。
細い体をしていた。まるで、つまようじで出来ているみたいだった。
仕事帰りのようで、疲労で今にも倒れそうな顔で道を歩いていた。
その姿を、何故か僕はかっこいいと思った。
友達にその話をしたら、ありえない、バカか、と散々言われた。また、共感されなかった。
髪がうすくなっても、非常にやせていても、それでもがんばって働いてきた人の姿を、何故かみんなは、かっこいいと言わなかった。