第77期 #7

紺色のマフラー

今日も聞き飽きた洋楽がスピーカーから鳴り響き、いつものように目が覚める。
カーテンを開けると、「うわっ・・・。」一面眩しいほどの銀世界に驚いた。今年初めての大雪だ。雪は今もしんしんと降り続いている。
銀世界の眩しさに目が覚めると同時に、少年の日の苦い思い出が僕のなかで勝手に再生される・・・。

 中学2年の冬、僕は遠くの学校に転校することになった。
女子のなかで一番仲のよかったハルコとは小学校時代からの同級生で、登下校のバスも同じだった。いつもくだらないことをだらだらと話しては大笑いしていたバカな仲だった。別に付き合ってるとかいうわけでもなし、だけど2人はいつも一緒だった。ハルコと冗談を言い合ってる時が楽しくてしょうがなかった。
 転校前の最後の日が来た。朝、僕は何となくいつものバスには乗らずに、一つ早い時刻のバスに乗った。その日はハルコと学校で会っても一言も話さなかった。
 学校が終わって、クラスのみんなとのお別れもした。校門を出て、ちょっと離れた場所でハルコが僕をずいぶん小さな声で呼んでいた。気が付くと辺りには雪がちらほらと舞い降りていた。
 ハルコが恥ずかしそうに差し出したのは、紺色の手編みのマフラーだった。僕の顔は、にわかに真っ赤になった。僕は慌てて「バカヤロー!もうお前とは会わないからな!」って言ってマフラーを無造作に受け取ると、いつものバスにも乗らず、帰り道とは全く逆のほうへと駆け出していた。だけどすぐに息が切れたので、しばらく宛てもなく歩き続けた。
 今日はこの冬一番の寒さみたい・・・鼻水が垂れてきた。降り続く雪のかたまりの一つ一つが、さっきよりも大きくなっていた。
 途中で公園があった。屋根つきのベンチに腰を降ろして、ハルコのマフラーを首に巻いた。僕はそのとき生まれて初めてマフラーというものを身に着けてみた。
「すげぇ、あったかいな・・・。」
 何だかわからないけど、涙がでてきた。
 僕は誰にも見られないように、上を向いて涙をそっと乾かした。
 雪はまだ、しんしんと降り続いていた・・・。



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