第77期 #29
部屋を片付けない奴っているだろ。外に出るときは小奇麗な格好してんのに、自室の環境は見るも無残って感じの奴が。
大学の友人にまさにそのタイプがいる。何度か遊びに行ったがひどいもんだ。新しいマンションに住んでいるくせに、ドアを開けたらそこはゴミの山。コンビニ弁当ばかり食べて、容器を捨てずに部屋の角に積み上げてやがる。せめてゴミ袋に入れろ、虫が湧くぞ、と言っても「殺虫スプレーしてるから大丈夫」なんて気楽な様子だ。
そしてそいつの趣味はぬいぐるみ制作。まあそれはいいんだが、作り終わったら片付けろと言いたい。綿やら布の切れ端やらが散乱しまくってる。あいつは作ることばっかりで飾ることには無頓着なのか、手製のぬいぐるみが無造作に積み上げられて埃をかぶっている状態だ。
何度も掃除しろと言ってるんだが、あいつはその度にへらへら笑って適当な答えを返すだけ。性格はいい奴なんだが、あのだらしないところだけは嫌いだったな。
そこである日俺は思ったね。一度あいつの部屋をぴっかぴかにしてやれば、もう汚さなくなるんじゃないかと。だが恩に着せるのもなんか嫌だったので、イタズラをしてやることにした。
まずあいつがゼミで丸一日拘束される日を調べ、出かけたのを見計らってこっそり侵入。新しいマンションなのでドア鍵は暗証番号式だったが、12ケタだと油断していつも隠さずに入力してたのを暗記済みだ。
そして半日かけて部屋をきっちり片付ける。あの大量のぬいぐるみも埃をはらって綺麗に並べてやったよ。
仕上げは一枚の書置き。妹に頼んで「いつもありがとうございます」と丸文字で書いてもらった便箋を机に置いたんだ。女には縁のない奴だから、心当たりがなくて驚くだろう。ふと目に付いたクマのぬいぐるみを文鎮代わりに乗せ、俺は鼻歌と共に帰った。
次の日あいつから電話が来た。天地がひっくり返ったようなパニックの声を聞き、俺は会心の笑みを浮かべた。
いつバラそうかと思いつつも話を促すと、なんとあいつはこんなことを言い出したんだ。
「部屋が一日で綺麗になっていて、普段から大事にしていたクマのぬいぐるみが机の上にいたんだ。これはクマが恩返しをしてくれたに違いないよ!」
俺はあっけにとられ、思わず電話を取り落としそうになったよ。
種明かしが出来る空気でもなく、あいつの喜ぶ声を聞きながらふと思った。
ああ、妖怪ってこうやって生まれるんだなって。