第77期決勝時の、#29フォークロア(えぬじぃ)への投票です(5票)。
「水分茶屋」は話がよくわからなかった。茶屋の店主が実は詐欺師(あるいは狐)である旅人をだましたってことなのか、旅人が途中でお金を木の葉にすりかえられてたってことなのか、どっちでもないのか。
しかしながら、たとえ筋が理解できたとしても、この話には語られるだけの魅力みたいなものが欠けていると思った。流暢な文章なだけにもったいない。いや、文章がうまいからこそ、中身の空洞がめだつ。
「梅に猿」はつづく「フォークロア」に比べてあらゆる点で色褪せて読める。「梅に猿」はどこか作品に作者の姿がみえず、小説を読んでいるときの、作者に寄り添う感じがつかめず、なんとなくこれ一篇で良否を決めることができなくなる。
それに比べれば「フォークロア」は面白かった。一番よかった。
まず、凡庸な作家ならば、たぶん「人形作りの男」を話の中心にすると思う。そしてもっと、へんなエロをまぜこんだり、文章をみょうに飾り立てたりするだろう。
ところが、この話は読後は「人形づくりの男」の印象ばかり残っているけれど、実は主人公は人形男ではなく、その友人なのだ。人形づくりの男がどんなに変わったやつなのかということを、誰か別の友人に語るという形式をとっている。この形は小説をよくわかった作者じゃないとできない。
そして、不潔であり変態っぽく思えそうなものなのに、なぜかゴミの山がでてきても、「クマがお礼してくれたんだよ!」と人物に語らせても、ちっとも不潔ではなくて、むしろ妙な新鮮さがある。ここもまた並みの作者にはできないところだろう。「梅の猿」にも偶然人形づくりの男がでてくるが、「梅の猿」の作者はさぞかし悔しがっていることだろう。
前期作もふくめて、ちょっとかなわない相手があらわれたな……と私は思っている。これは私だけだろうか? 「なし」と書かれた方は本心だろうか? いい作品を書ける相手には賛辞を惜しむべきではない。それは場の力を相対的に弱めてしまい、そうするとそこに参加している自分まで力が落ちていく。私はえぬじぃ氏になみなみならぬ才能を感じる。だからこそ推薦するし、とにかく投稿をつづけてほしい。こういう、私にとってのライバル作家が「短編」にはあと何人かいる。
参照用リンク: #date20090304-174939
決勝に残った三作品の中では、短編小説として素直に面白いと感じた。
上手い作品よりも、面白い作品を読みたい。
参照用リンク: #date20090302-142402
文句なし。この三作の中ならば、他二作とは比肩すらしない。
他二作もレベルは高いが、少しほつれが見えている。
参照用リンク: #date20090301-230122