第77期 #24
朝起きたら、栗原宗平は虫になっていた気がしたが、よくよく考えてみるとそんなことはおかしなことだし、ちょっとありえないことだと思って、じっくりと自分のからだというやつをもう一回見直してみたのだけれど、やっぱり虫は虫だったわけで、ただしなんの虫なのかといわれると、イモムシのようなカブトムシのような、あるいはウスバカゲロウのような、一向に判然としなくて、とりあえず個人的な趣向としてぶよぶよした虫は好きじゃないので、その説は除外するとして、かといってまあ何の虫だったらいいんだよと言われても返答に困るわけで、街かどで百人に聞きました、朝起きて虫になっていたら何の虫がいいですか、は、あ、へ、えーと、あの、その、虫ですか、虫限定ですか、なんていう具合で、十七歩ぐらい離れたところで、あ、あれか、元ネタはあれなんだ、と気づいてとりあえず納得することになる、そもそも虫ってなんだよ、昆虫とは微妙にちがうようなんですね、はい、さてこの議論はどこかで聞いたことがあったぞ、よくよく思い出してみれば『虫づくし』だ、あれの冒頭にうだうだあったな、いやさわかったところでこの状況になんら変化はないんだけど、そうなんだ、虫になってるんだ、曖昧だけど、もーそーですよ、虫ですよ、あれひょっとして漠然として虫ぐらいの話なら人間って虫に入るんじゃないですか、そうだ、きっとそうだ、つまりは朝起きて虫になっていたわけではなくて、より大きく我々は虫的存在なのであーると気づいたわけなんですね、コペルニクス的転回なのかもしれない、なるほどそうか、大発見だ、ノーベル賞とかたぶんもらえたりするんじゃないか、何賞か知らんけどさ生理学賞あたりなんじゃないかな、虫、なんだなあ、虫、なんですね、虫以外の何者でもあるまい、高らかに叫びあげるのだ、吾輩は虫である、名前はあるんだけどね、あって悪いかよ、猫はうらやんでくれるだろうか、やっかみはしないだろうか、いいじゃないか君も虫なんだよ、仲良くやろう、そうだ名前を付けてあげよう、なにがいいか、ま、そんなあわてたもんじゃないよね、さあ、これで虫的平和圏の成立だよ、みんな虫です、生きているんです、友達なんです、るーるーるー、らーらーらー、ありがとうありがとう、あけましておめでとうございます、とりあえずもっぺん寝よう、ぐーすかぴーのひょーひゃららー、ぷかぷかぷーぷー、ぴょろろーぴょろろろー。