第77期 #18

サードラブ

 ファーストラブは初恋。セカンドラブは結婚に発展した恋。そして、サードラブは結婚して何年も年を重ねた後に夫婦が再びお互いを意識し合う恋愛。テレビで誰かがこんなことを言っていた。もしそうなれたら良いなあと漠然と思った。
 私とお父さんは大学の同級生で、20数年前に大恋愛で結婚した。お父さんは今よりも体重が15キロは軽く、がっしりした体つきでハンサムでとても素敵だった。なのに、今はもうすっかり中年おじさん。勿論、私だってお父さんのことは言えない。結婚して3人の子どもを産む間に体重は10キロ増えた。
 でも、私だってまだ40代だ。テレビにあやかってサードラブでもしてみたい。太った体と、化粧っ気のない顔、昔ほど気を使わなくなった服装、この所帯染みた雰囲気から脱出したいと思った。
 私はお父さんにケータイメールを送ってサードラブ宣言をした。口で言うのはあまりにも恥ずかしいと思ったのだ。
『私たちこれからもう一回恋愛したい。昔みたいに』
『馬鹿が』
 しかし、お父さんの返事はつれないものだった。
 まずは名前の呼び方を変えてみようと思った。子どもたちに合わせてお父さん、お母さんなどとお互いのことを呼ぶことが間違っている。
『私たち、前みたいに洋平、美加子って呼ぶようにしたい』
『馬鹿が』
 相変わらずつれない返事だったけれど、私は私の思うままに決行した。
 それからと言うもの、いつも昔のあの大恋愛の頃の2人をイメージした。身だしなみに気を使って、毎朝ちゃんと化粧をし、ダイエットも始めた。洋平の服は毎朝、私が決めた。朝晩、洋平にちゃんとねぎらいの言葉をかけた。
 日に日に、洋平が素敵に見えて来た。
 そして、サードラブ宣言から3か月。
 急に洋平からケータイメールが届いた。
『美加子。今夜、銀座のラ・ヴィラにでも行かないか。子どもたちはほって来い。7時』
 ラ・ヴィラってまだあったんだと思った。洋平が大昔プロポーズしてくれたフレンチレストラン。思い出す、あの時のことを。
 洋平と久しぶりのデータだ。どうしよう? 何着て行こう? 美容室に行った方がいいかな? 心がうきうきしていた。
 ラ・ヴィラに行くと、洋平から白い小さな箱を渡された。中身はダイヤのリング。結婚して洋平からもらう初めてのプレゼントだった。
「今日は俺たちの25回目の結婚記念日だろ?」
 涙が溢れた。
 すっかり忘れていた。
 洋平のことを愛していると思った。



Copyright © 2009 詩織 / 編集: 短編