第77期 #19
どこかがひん曲がっているのか、捻じれているのか、しかしそうではなくきっとさいしょから傾いている。
こまかな格子縞に縁取られた、巨大な、それはもう巨大な図表用紙に俯瞰される一つの小さな点は、まるで夕闇のおしせまった空に霞みながらあらわれるひとつの星のように、それがどこに位置づけられるのかは判然としないが、しかし間違いなくあるのだと、そのような按配にことが運んでいればよかった。
その場にあっては、もはや動くことも、眺めることも、思うこともなく、ただ漫然と点であることができたのかもしれない。
だが、いまあらわれるそれは既に傾きをもっていた。
それは眠っていたのだろうか――目は瞑っていたのだろうか――眠っていたとすればおそらく身を横たえているだろうか。
瞼を開くと、拡がる巨大な空か、茶色く染みのついたいまにもにおい立ちそうな天井か、茂った葉かが見え、つぎにそれはどうするだろう。
ひと息を吐き出して気を落ち着けるか、すぐさまに上体を起こし周囲をみわたすか、あるいはふたたび目を閉じ黙想にふけるのか。
枝葉はその都度分岐し延び続ける――生まれたそのときから傾きをその身に抱え込んだそれは、歩き出せばもう一点に留まることなどかなわずにごろごろと転がっていく。
もはや公正な判断のもとにふり下ろされるハンマーを偽装することはできない。
駅前の雑踏に雄雄しく立ちはだかる宗教家は、唾をしぶきながら声を張り上げ、正しい歩みを主張する。
靴の音にかき消され削り取られた声が、ひとりの青年の心に杭を打ちつける。
青年はくびすを返して宗教家に向かっていくだろうか、下らないと唾を吐き棄てるだろうか、杭を心の隅にしまいこんでそのまま歩き進めるだろうか。
生まれながらに傾きをもつそれは、不完全に統合された「私」か「彼」かになるだろう。
いずれ傾きが巡り巡って、自らの傾斜に思い至ったら、それはどのように転がっていくだろうか。
――神とは何ですか
――私たちを見守ってくださる最高存在です
――あなたにとっても最高存在なのですか
――もちろんです
――ふうん、面白いですね
――あなたも神を信じるのですか
――さあ、もしかすると、信じるかもしれないし、信じないかもしれません